ただいま。
ーーーーー痛い。
とにかく体全体に猛烈な痛みが走っている事が分かるが、これは夢なのか、たまに頭の中に流れてくるアレなのか、分からない。だが周りでは大勢の人間の怒声や息遣い、剣のぶつかり合う音や剣が何かを切り裂く音、そういった類の音が聞こえる気がする。
「ーー死なないで」
意識が揺らぐ中、聞こえてくる優しい声に耳を傾ける。もう片方の耳には安心感のある温もりを感じ、その声も温もりも彼に目を開けようとさえ思わせない程に心地よかった。
「絶対に帰ってきてね」
ふと思い出した。読書をしていたら眠気に襲われた事を。そして、この片耳の温もりは今自分が膝枕されている事によるものだと気付く。
「ーーーーー私、ずっと待ってるから」
この心地よい声は母が何かを読んでくれていたのだと確信して、目を開けた。
「んーーー、いつのまにか寝ちゃってた」
少年は起き上がり、微笑しながら呟くと真横から笑い声が聞こえた。
「きっと日が当たって眠くなるのね、母さんもそこでよく居眠りするわ」
母親は持っていた本を本棚に戻しながら日差しの当たるソファー周辺を見渡しながら言い、
「いい夢でも見てたのかしらね、気持ち良さそうな顔して寝てたぞー?」
とバカにしているような表情で続けた。
「......なんか痛かった...」
少年は思い出しながら呟く。
「痛かったー?まーた、意味の分からない夢でも見たのよ。今日は『騎士団と叛逆のルイス王』っていう本を読んであげたんだから自分を主人公に見立てて、どんな想像したって痛みなんて感じないはずだわ」
『騎士団と叛逆のルイス王』。それはルイス王という人物が世界を変えれる力を手に暗躍し、それを見過ごせないと世界中から騎士団の精鋭達が集まり、ルイス王の統べていた王国に攻め入って最終的には生きた国民を柱に鎖で繋いだまま海底へ沈めて封印したという物語だ。
「......なんだか残酷で僕はあんまり好きじゃないな、あの本...」
少年は哀しげな表情で母が本棚に戻した本を見つめる。
「けど確かフィクションってなってたし、本当にあったわけじゃないのがせめてもの救いだわ。母さんもあの本は残酷すぎると思うし」
母親も本を見つめながら言った。
「でもなんだか同情しちゃうんだよなー...記憶に残るっていうか、懐かしさっていうか......うーん」
少年は首を傾げながら考え込む。
「それはきっと同じ名前だからよ!」
少年の様子を見た母は豪快に腹を抱えながら笑い、
「ねぇ?ルイス!」
その名を呼んだ。