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目が綺麗だなぁ。
そういえば開発秘話曰くキャラの属性によって目の色が違うんだよね。あと名前も属性によって分かりやすく表記されてる。
アクアくんは水属性だしそりゃあ綺麗な色だよねやっぱり──……
「……大好き」
現実逃避したくなるほど口からするりと出た2度目の告白の言葉。
そのまま固まるアクアくんと視線を交す。
やらかした私も固まっている。アクアくんも固まっている。
つまりどちらも動けないのだ。時間がどれくらい経ったのかも分からないけど一生をここで過ごすのも悪くない気がしてきた。生きているアクアくんとこの場所で骨になるまで過ごすのだ。幸せすぎる。推しと死ねるのなら死ぬのも幸せかもしれない、いや幸せだ。このまま時間……止まらないかな。
と、思っていたのだけれど現実はそう甘くはない。
「ち、ちょっと!そろそろ離れてあげなさいよ!彼が可哀想!」
横から衝撃が走り、アクアくんに気を取られていた(というかむしろ全てアクアくんに向けていた)私は床に転がった。頭は打たなかったけれど地味な痛みが足に走る。どうやら突き飛ばされたらしい。
「ねぇ君、大丈夫?」
「え……あ、あぁ。うん。君は……」
「私はディア。ディア=フェザーよ。入学したばかりなの。よろしくね?」
自己紹介する前にまずはこっちに一言言うとかさ……。まぁいいや。
よいしょと小さく声を出して起き上がる。
立っても足が少し痛む程度。大きな怪我はしていない様だ。
庇ってくれたアクアくんは大丈夫だろうか。シナリオ通りだと庇ってくれた攻略対象は肩を痛めているはずだ。
……でも確かめる前にやらなきゃいけない事がある。
「……あの、僕そろそろ教室に行かなきゃいけないから。」
「え!?もうこんな時間?わ、私も早く行かないと!」
「待って下さい」
駆け出そうとしたもう一人のヒロイン、ディアの腕を掴む。
うわ腕ほっそ。
「………何よ。何か用で」
「先程は申し訳ございませんでした。不快な事を言ってしまって。」
「……は?」
そのまま深く腰を折り謝り、続けた。
「つい貴女を見て頭に血が登ってしまった私が完全に悪かったです。」
どちらが悪いというのは置いておいて謝罪は必要だ。前世の両親もどんな時にも礼儀は忘れずに、と言っていたし。
そして呆気に取られる彼女を置いて、続けて私は彼に駆け寄った。
時間が押しているのも確かだし、ちゃちゃっと魔法を使って怪我を確認してしまおう。
影から闇の力を借りて魔法を構築する。私の魔法は闇属性で癒しの力。
「少しだけ失礼します」
「……っ!」
倒れていたアクアくんの手を引き起き上がらせ、彼の肩に自分の手を当てる。小さく呻いた、つまりシナリオ通りっぽい。
当たり前だがこれは治療。治療だから今だけ推しに触れるのを許して欲しい。制服越しでも分かるあまり筋肉の付いていないだろう身体……最高では?って違う!
治療!治療を私はするんだ!興奮でドクドクと聞こえる心臓の音から逃れる様にアクアくんの肩に当てている手に魔力を込め、癒しの力を流し込んだ。
「……っ、……あ、れ……痛みが……」
「貴方も、庇ってくれてありがとうございました。
後遺症等ありましたらノーチェ=ジャクドーへお気軽にお申し付けください。……あと少しチャイムが鳴りますので私はここで失礼致します。」
「あ、ちょ……!」
何か言われる前に退散する。
これ以上ここにいたら興奮し過ぎて更にボロを出してしまいそうだ。
急ぎ足で廊下を歩きながら深々と溜息をついた。さて。
ノーチェについて簡単に振り返ろう。
私はノーチェ=ジャクドー。貴族の両親から産まれた一人娘。 山で育ったから人の気配に敏感っていう設定もあったな。
外見は灰色の髪にアレンジされてないケープ付きの制服。目は……何色だろう。紫かな?そもそもこの状態は生まれ変わり…なのだろうか?
私死んでるのかな?
ノーチェとして昔のことは覚えている。でもこの記憶が私の物なのかノーチェの物かは分からないのだけれど。
あ、そうだ。
「イカズチ」
「はい。ここに。」
指をパチンと鳴らし彼を呼び出す。彼はイカズチ=タナカ。
ノーチェに仕える攻略対象の一人だ。金色の瞳を黒い髪で隠しているイケメンである。
ノーチェ、……私の両親は私の能力を知った時、悪用されないように山奥の村へ引越し。
そこで偶然クマに襲われているイカズチの祖父を助けたのだ。
イカズチの祖父は私達家族がお世話になる村の村長で、しかも忍者の末裔。
夜食にクマ鍋が食べたくなり、クマを狩ろうとしたらぎっくり腰になってピンチだったらしい。
感謝した祖父は両親の話を聞き、そして私に同い歳になるイカズチを仕えさせる事にしたのだ。
初めて会った時は感情も何も無い子だなぁと思っていた。しかし関わる内に気付いた。この子ただ無表情なだけじゃん。
よく聞くと分かるのだが、声に感情が現れるタイプ。
余談だけど名前を漢字にすると田中 雷。なんでかっこいい名前に田中なんて付けたの公式。
そんなイカズチはノーチェルートでは一番人気だったりする。
出会った時からノーチェに一目惚れをしており、出会った時から今までずっと彼女を想い続けてきた。
しかし主人と従者という関係からか恋心は心の奥底に仕舞い込み、ただ彼女の幸せを願ってこの学園にも付いてきた。
彼のルート分岐は攻略対象のメインルートに入る一ヶ月前。
ノーチェは学園に逃げ込んできた半魔法組織のテロリストによって人質に取られてしまう。
そこでイカズチに助けられるのだ。
そこからイカズチをノーチェが意識していくのだが、イカズチはノーチェを守るという自分の任務に支障が出るかもしれないと気付かないフリをして日常を過ごしていく。
やがて気持ちが抑えられなくなったノーチェはイカズチに告白する事に。そこから……どうしたんだっけ?
思い出したとは言っても全部は思い出せてないのかな。まぁいいか。
パッケージではノーチェルートのメインヒーロー扱いなのかどどんと前に大きく描かれている。そんな彼に、私はこれから言わなければいけない。
念の為に。間違いを起こさないために。
「ねえイカズチ。さっきの見ていたでしょう?」
「はい。自分とノーチェ様のクラスを確認していた為、助けられず申し訳ございません。先程の彼女……闇討ちしますか?」
「しなくていいから。……んんっ。私を助けてくれた。あの方なのですが、調べておいてくれませんか?」
「畏まりました。何か引っかかる事でも?」
ここだ。
私は自然に。自然に恋する乙女の猫を被って、こう告げた。
「ええ。私、あの方に恋をしてしまったようなの。だから彼の事をもっと知りたいのです。」
もじもじと恥じらいを持つ乙女の様に、ちらりとイカズチを見上げた。
彼の瞳は一瞬哀しそうに揺れる。しかし次の瞬間にはいつもの彼に戻っていた。
「畏まりました。お任せ下さい。」
「ふふ宜しくお願いします。頼りにしているわ。」
自分が彼の恋心を知っているからか罪悪感がすごい。 でもこれはアクアくんを助けるためなのだ。心から許して欲しい。
私は決心していた。神様のくれたチャンスは無駄にしない!必ずアクアくんを救ってみせると!その為には何でもしてみせる。
そう、念には念を入れて身近の攻略対象とのフラグを折ったりとかね!さっきのもその内の一つ。
よし!頑張るぞ!
「所でノーチェ様。あと数秒でチャイムが鳴りますが。」
「それもう少し早めに仰っていただけますか!?」




