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それは本当に突然の事だった。

グラリと身体が傾き私は空中に放り出される。

目の前には驚いた様な“彼女”。

嫌だなぁ。何で私を落としたあなたがそんな顔するの。


そのまま私は床に引き寄せられる様に落ちていき衝撃を待とうとして――……しかしいつまで経ってもその衝撃が来る事は無かった。

代わりに聞こえたのは「うっ」という誰かのくぐもった声。

途端に、記憶が蘇った。






昔……というか前世の私は平凡な女だった。

幼い頃は特に秀でた物もなく、大学を卒業して、普通の会社に勤め普通に生きていた。

ある時友達に連れられアニメショップへ行き、そこで見かけたトレイラーPVに私は目を奪われる事になる。


映っていたのは友人曰く乙女ゲームのPV。私自身ゲームは某有名なモンスターを捕まえる物しかやったことは無かったので、友人にその類のゲームを勧められた時興味は湧かなかったけど。


初めは友達が別のコーナーに行ってる間暇つぶしにぼんやりと見ていただけ。

キラキラとした少年達と可愛いヒロインが写り込み、最後に出てきた卑屈そうな少年……その子に私は一目惚れをしたのだ。

少し青みがかった緑色の髪、綺麗な瑠璃色の瞳、興味なしと言った風にこちらを見つめる視線、真一文字に結ばれた口。



「えっ、好き」



全てが性癖に刺った。

発売日を確認した後、瞬時にスマホを取り出し、タイトルを調べ特典を把握。

偶然か運命なのかこの店で初回限定盤を予約すると特典に彼の着けている指輪のレプリカがついてくるらしい。

そのまま私は流れるようにレジへ予約票を持っていき、直後にゲーム本体を購入していた。正直覚えていないが友達は行動力にドン引きしていた。

発売日当日は有給を1週間取り、朝イチにゲームを取りに行きそこからずっと家に篭もってゲームをプレイ。

彼に一目惚れした時はゲーム内容をよく見ていなかったのだが、どうやらこのゲームはダブルヒロイン制?というものらしい。

友達に聞いたところそんなゲームは珍しいのだとか。


自分自身あまり派手な容姿ではないので、派手で可愛いヒロインよりも少し大人しめなヒロインの方を初めに選択。

内容はこのような物だった。



ヒロインは闇属性で癒しの力持ちという珍しい存在。闇属性は攻撃魔法しか使えないらしい。

この力を悪用されないように村で匿われていたが、とても有名な魔法学園から招待状が届いた事で村を出ることになる。

二年から入学し、そこから恋を発展させて行く話の様だ。


選ばれなかったヒロインはライバルとして物語に関わってくる。

ちなみにもう一人のヒロインは光属性で攻撃魔法が使えるという設定。

この世界では光属性は癒しの力のみ使えるという設定なのでこちらも珍しい存在。

そんな真逆の二人が運命的に出会い成長し、同じ学園の生徒と恋に落ちていく……のだが。


おかしい。


私は黙々と睡眠時間を削りながらゲームを進めていた。彼は想像してたよりとても素敵な人だった。卑屈でネガティブ気味だが、親しくなると不器用ながらも優しさを見せてくれる。何よりときめいたのは彼の笑顔。

あまり笑えたことが無い(自称)彼が本当にたまに見せてくれるぎこちなさすぎて不自然な笑顔。素晴らしい。初めて見た時はあまりに興奮しすぎて自室のタンスに小指をぶつけたくらいだ。

それくらい…、彼にのめり込んでいたのだが……おかしいのである。

彼のルートを探すために私は何回も何回も周回した。乙女ゲームに詳しくなかった為、色々調べもした。もしかしたら特定のキャラを攻略しないといけないのではないか。

バッドエンドを全て埋めなければ行けないのか。いやむしろ、コンプしたらおまけで攻略出来るのではないだろうか。1週間を掛け、全て調べ尽くした。

それなのに、何故か彼はメインルートに入る前に死んでしまう。


とあるルートではヒロインを庇い建物の下敷きになり、またあるルートでは敵対する組織により人質にされそのまま殺されてしまい、またまたとあるルートではいつの間にか死んでいたのがエンドロールで判明。

公式は何か恨みでもあるのかというくらい死んでしまう。

一縷の望みをかけてもう一人のヒロインで遊んでもみた。しかし死ぬ。更に惨たらしい方法で死んでしまう。


なんで、なんで彼がこんな酷い目に……。


パッケージにも彼の姿はあるのに。

フルコンプ時映し出されるスチルにも彼の姿はあるのに。

コラボカフェにもグッズはあるのに。


どうして最後には死んでしまうの。

特典の青い硝子が嵌め込まれた指輪を握り、私は何度も何度も救いがあると信じゲームを周回し続けた。






……そして今に至る。

全部思い出した。私はいつの間にかこの世界に来ている。

これは神様のチャンスなのではないだろうか。

彼を救えという神様からのチャンス。


私の記憶だと階段の踊り場から落とされるのはプロローグでのイベント。


派手な方のヒロイン……ディアが大人しめのヒロインであるノーチェに地雷を踏まれる。

そして、衝動的にノーチェを突き落としてしまう。


各ヒロインはサブヒロインの攻略対象とそれぞれ友情イベントがあるんだけど、前まで遊んでたサブヒロインに感情が入ってる人もいるだろうからという公式の考えか一人だけはこの現場でサブヒロインを助けて、ルート中はヒロインへの好感度マイナスからスタートなんだよね。

勿論そこから仲良くなる事も出来るけど色々と手順が面倒くさいし、付きっきりで好感度も上げなきゃいけない。尚助けてくれる攻略対象はランダムである。

勿論私はそのルートも全クリした。しかし彼は死んだ。


思い出すだけで涙が出てきそうだけど、まずは後ろの助けてくれた人にお礼を言わないと。


ちなみにここは乙女ゲームの謎なのだが、私は背中から落ちたはずなのに何故か今は助けてくれた人と向き合う形で倒れ込んでいる。

私は空中で一回転でもしたのだろうか。まぁいい。とりあえず離れよう。

腕を使い起き上がり、助けてくれた人の顔を見てひゅっと息を飲んだ。




そこには私が愛してやまない彼……アクア=アネットの姿があった。

早く上からどかないとあっでも睫毛長い。じゃなくて!何か言わないとああでも顔可愛い。でもなくて!

大好きな本人を前にすると何も言えない私の悪い癖が出てる気がする。



「…ったい……、元気なら……早く上からどいてくれる?」



彼の口から吐息と共に吐かれた言葉。

ああもう声も好きむしろ嫌いな所が無い。



「好き……」


「えっ」


「あっ」



いつの間にか声に出していた様で。

見る見るうちに赤く染まるアクアくんの頬。あっこれ絶対聞こえてたやつだ。


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