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非日常の世界へ〜7〜

「悪魔…?そうなの、ラバちゃん?」

「のぁん」

「違うそうですけど……。」


両手をローテーブルに叩きつけ、噛みつかんばかりに鶫に吠えるゴート。そんなゴートのただならぬ気配を察して鶫は腕の中の生物に問いかける。するとその生き物は日向ぼっこする野良猫のようにだらけた鳴き声を上げ、首を横に振る。

……そう、首を横に振って目に見えて否定したのだ。だというのに、鶫はどちらを信じれば良いのか分からない、と戸惑った表情でゴートとそれを交互に見る。

ゴートは溜息と共にソファに崩れ落ちる勢いで座り込む。肩幅よりも若干広く足を開いて座ったゴートは己の膝に両肘を付き指を組み、その手の上に顎を乗せて疲労を露わにした。


「……何をどう見たらツノと羽が生えた二頭身の黒猫っぽい生物が人語を理解し、自らの意思を示すのが普通なのか……。フレイ君、ワタシにも理解できるように30文字以内で答えたまえ。」

「まさかのオレ。……ん、ぅん…そうだな…答えは……『オレにもサッパリ分からん。』だな。」


先程までの人をおちょくったハイテンションから一転。ゴートは唐突に厳かな雰囲気を醸し出して声を低める。戸惑った自身を落ち着ける為の行動なのだろう。

しかし、そのゴートの混乱の矛先は放心しかけて傍観を決め込もうとしていたフレイに向けられる。決心して早々に第三者に徹するのを断念せざるを得なくなったフレイは一周回って逆に落ち着き、特に声を荒げる事もなくゴートの問いに対する答えを考えた。だが、考えようにもフレイ自身も混乱しているが故に、ものの10秒で諦めて思考を放棄した。そんな適当過ぎるフレイの答えにもゴートはそうか、と答えただけで黙り込んでしまう。


「……奴を喚ぶか。」


黙り込んで数分。ゴートは変わらず低い声のまま、ボソッと誰に言うまでもなく呟いた。ただならぬ雰囲気に鶫はごくりと生唾を飲み、その腕の中の生き物は喉を震わせて唸る。そして、過剰に反応したのがフレイだった。


「お…オイオイオイオイ……ふざけんなよ…奴を…アイツを喚ぶって言うのかよ…?今、この状況で?」

「そうでもしないと話が進まない気がして……。」


顔を真っ青にして戦慄するフレイ。その青褪めた顔に鶫は恐れ慄く。彼らの言う『奴』が誰なのかは勿論知りはしないのだが、かなりヤバい奴なのだろう、ということだけは感じ取ったのだ。


「話が進まなくともアイツだけは喚ぶんじゃねぇ!!これ以上…」


悲痛にも聞こえるフレイの叫びはそこで途切れた。いや、止められたと言った方が正しいだろう。

フレイの声を止めた元凶はゴートが現れたのと同じ扉。その扉が吹き飛びそうな程に乱暴に叩きつけられるように開けられたのだ。音に驚いてそちらを見てしまった鶫はすぐに後悔した。何故なら、そこには人間とは到底かけ離れた姿の異形の者が立っていたのだから。


「来やがったァァァァァ!!」

「何ですかアレぇぇぇぇぇぇ!!?」


フレイの絶望しきった絶叫と驚きと恐怖から来る鶫の悲鳴が重なり合い、耳を劈く不協和音を奏でる。

米噛みから伸びるカーブを描いた闘牛のような黒いツノ。尖った耳に、ギラギラとした黒に映える赤い瞳。狙った獲物を逃さずに咥えてしまうであろう鋭い牙が所狭しと並んだ口。鍛え上げられたのであろう、筋肉のついた手足は奇妙な模様の刺青に塗れ、その先はどんなものでも引き裂いてしまいそうな爪がある。

そんな異形の者を見て叫び声を上げないどころか、噂をすればなんとやら、なんて笑っているゴートの方が異常なのかもしれない。

ゆらり。ソレが一歩踏み出したのを見た瞬間、部屋の中にいるというのに突風が吹き荒れる。目を開けていられなくなった鶫は慌てて風除けとして両腕を顔の前に持っていく。


「うわっ……!?何、今の…大丈夫?ラバちゃ…ラバちゃん!?」


風が止み、すぐさま先程再開を果たした小動物を探せばいるはずの膝の上にいない。まさか今の突風で吹き飛ばされたのでは、と怪我をしてしまっかもしれない、と焦りや心配に慌てて辺りを見渡せば、何故かすぐ背後に立っている異形の者の口から下半身を覗かせていた。


「ラバちゃぁぁぁぁぁぁん!!??」

「ククリ。そんなもの食べるんじゃありません。ぺっしなさい、ぺっ。」

「……ぶべぇ?」


半狂乱な鶫の叫び声の後、ゴートが幼い子供に言い聞かせるように咎めれば異形の者はかぱっと大きく口を開ける。大きく開いた口からその生き物を救出した鶫はゴートから借りたタオルで唾液塗れのそれを優しく拭いてやる。


「…ぷっはぁ!何をするのだ!!出会って数秒で食らいつくとは!あちら側の下級にもそのようなことをする者などいないぞ!!」


優しくタオルで包まれたその生き物は、異形の者に向かって大きな怒声を浴びせたのだった。

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