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季節ハズレの新生活〜4〜

「……ちょっと待て、ツグミ。まさかとは思うが…お前、何も聞いてないのか?」

「いや、何もっていうか……何をでしょう?」


混乱し、え?え?と壊れたおもちゃのように「え」という音しか発しなくなった鶫を見たヴォルカは訝しげに眉をひそめる。そんな彼の問いに素直に答えれば、ヴォルカは鶫の隣の席に崩れ落ちるように座り込み、眉間を揉んだ。吐き出された溜息は腹の中身が全てひっくり返って出てくるんじゃないかと思う程に重々しい。


「……リオン、マリーン、スズカ、レアフ。お前らの自己紹介は?」

「……してないけど?」

「もぐんむぐもぐもごごむんぐ。」

「んー…まだだね!」

「……ぐぅ。」


ガックリと項垂れたヴォルカは恐る恐る、といったように食卓に着いたメンバーに問いかける。すると緑髪の少年、金髪の女性、銀髪の少女、赤茶色の髪の少年の順に返事をする。……赤茶色の髪の少年については返事ではなく寝息なのだが。

彼らの返事を聞いたヴォルカは、嘘だろ…と小さく呟いてまた項垂れた。


「お前らなんなの?自己紹介くれぇしろよ。困るじゃん。ツグミ、めっちゃ困ってるじゃん。」

「そんなこと言っても、僕らはその場にいた訳じゃないし。まさか人間が新入りだなんて思わないよ。…ヴォルカが来るまで誰だろコイツ?って思ってた。」

「教えたじゃん!!新入りの名前は!!聞いてやれよ!!」


一人嘆くヴォルカに、緑髪の少年が読んでいた新聞を丁寧に畳んで言う。明らかにヴォルカの方が年上なのだが、落ち着き方で言えば少年の方が大人に見える状態だ。

だが、ヴォルカはヴォルカで他人を気遣うことに長けているのだろう。緑髪の少年の発言を聞いて、食卓の上の食器たちに被害が出ない程度にバンッと机を叩いて憤る。


「むんぐぐもぐもんむむぐんぐ。」

「いや…あのなぁ……!お前ら本当に利己的か!?利己的か!悪魔だもんな!!」

「むぐむんもんぐむ。」

「うるせえ、ほっとけ…!つーかマリーン。てめぇは食うか喋るか溜息つくかどれか一つに絞れや。」


ハムスターの如く、頬一杯に朝食を詰めてヴォルカと話すのは金髪の女性。マリーンと呼ばれた彼女が口一杯に朝食を詰め込んだ状態で何を言ったのか鶫にはさっぱりだったが、ヴォルカはわかったらしい。どうやら、付き合いはそこそこ長いようである。

そんな風に鶫がそれぞれのことを観察していると、不意に赤茶色の髪の少年がムクリと起き上がる。…とは言ってもやはり脱力した姿勢で、顎だけを食卓の上に乗せている、非常に行儀の悪い格好である。


「アンナ〜〜………そろそろガッコー、連絡、しなくていーの……?」


どこか聞き覚えのあるそのとろ〜んっとした声に鶫はどこで聞いたんだ?と首を傾げる。と、ぎゃんぎゃんと絶え間なく続いていて、もはやBGMと化していた罵り合いが止まって少女の明るい声が響く。


「ひょれなりゃヘーキ!!もうれんりゃくはすまへてあふ!!」


不明瞭な言葉に、鶫は自然と件の赤髪の少女へと目を向ける。そこには目の前の相手に胸倉に掴みかかられている白髪の男と、目の前の相手に両頬をみょーんと伸ばされた赤髪の少女がいた。白髪の男がしていることは少しばかり微笑ましく感じるが、赤髪の少女のしていることは、些か視覚的に首を傾げたくなる。華奢な体の少女が自分よりも背の高い男の胸倉を掴んでいるなんて、鶫には違和感しかなかったのだ。

しかしその状況に誰も突っ込みを入れず、赤髪の少女に話しかけた赤茶色の髪の少年に至っては「そっか…りょー……すやぁ……」と言葉の途中でまだ眠り始める始末。


「新人ひょーいくがあふしへ!とーはんの真似ひてへんらくひたんだ。」

「そーかい、そーかい。なら、その新人にまずは状況説明してやろうな?」


何言ってるんだ、コイツ?

そんな顔の鶫を除く面々に説明するかのように少女が言えば、ヴォルカが鋭い目付きを更に鋭くして少女を睨む。だが、少女はそんなのどこ吹く風。目の前の男の胸倉を掴んでいた手をパッと離して、その男の両手を掴み、自身の両頬から手を外させると、ぐぎぎ…と言いながら口を尖らせた。


「それは私の説明じゃないよ。父さんも交えて話し合って、イララバさんが話すって決めたじゃん。」

「だぁから!タイミングが!!無かったんだと!言っているだろう!?どこから話せば良いのかも分からんし!!」

「ハッハー☆いい歳して何言ってんですかぁ!?ネタですかねぇ?」

「っ……貴ッ様ァ!」


むくれる少女の言葉に白髪の男が反論する。すると少女はすかさず男の言葉を鼻で笑って嘲笑。それにたいそう頭に来たらしい男が再び少女に掴みかかろうとする。またあの口論が始まるのかと思われたが、それが始まることはなかった。ヴォルカが二人の間に入ったのだ。


「はいはいはいはい!!二人の意見はぃよぉ〜く分かった!!だから一回落ち着け!!そんでもって取っ組み合いをやめろ!!お前らは穏やかな朝を迎えるってことができねぇの!?俺かクロさんの胃に穴でも空けてえの!!??そしてレアフ!いい加減に起きろ!リオン、スズカ!二人は少し周りに気を配ることを覚えてくれ、頼むから!!マリーンは飯を食う手を止めろよ!!なんで取っ組み合いのすぐ隣でそんなに飯が食えるんだ!!」


ヴォルカの必死な仲裁が功を奏し、再び取っ組み合いが始まることは防ぐことができた。しかし、仲裁の際にぶち撒けられたヴォルカの怒りは他のメンバーにも飛び火する形となったのだった。

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