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季節ハズレの新生活〜3〜

少女が鶫の影から手を引き抜くと、その手に襟首をガッシリと掴まれた人が姿を現わす。散々抵抗したのだろう。肩下くらいのボサボサの長髪をだらりと垂らし、テレビから這い出る、某女性幽霊のようにズルズルと出てくる。己の影から這い出て来たその人物に、鶫は腰を抜かした。


ドタタッと大きな音を立てて尻餅をついた鶫には目もくれず、少女はその可憐な容姿からは想像もつかないような俊敏さで長髪の人物の胸倉に掴みかかって怒鳴り声を上げる。それに対して真っ白な長髪のその人物は少女に強気で何かを言い返す。少女が怒鳴り、白髪の人物が高圧的に言い返すこと数度。二人が「あ?」「あぁ?」とドスの効いた声でハモった瞬間に口論は罵り合いへと進化した。


何が何だか分からない上に、某女性幽霊並みのホラーな登場を間近で見てしまって腰が抜けた鶫は、ひたすらに口をパクパクと動かしていた。自力で立ち上がることも叶わず、目の前の明らかに只者ではない二人の激化していく罵り合いを前に、陸に打ち上げられた魚宜しく口を動かす以外に一体どうしろと言うのか。

全く飲み込めない状況に、誰か説明しろよ!!と、心の中で半ばキレ気味に怒鳴って床にへたり込む鶫の前に、またもや見知らぬ人が増えた。

この騒ぎを聞きつけたのか――90%の確率でそれはないだろうが――銀髪の少女と金髪の女性がのんびりと談笑しながらダイニングに足を踏み入れたのだ。そんな二人は、騒がしい罵り合いには一切興味がないようで、チラリとも見ずに食卓に着いた。そんな二人に、少しは手伝ってよ、などとブサクサ文句を言いながら配膳するのは先程脱衣所に鶫の服を届けてくれた緑髪の少年。少年が配膳し終わるか終わらないかくらいの絶妙なタイミングで、寝ぼけ眼を擦って現れた赤茶色の髪の少年が鶫を立たせて食卓の席に着かせた。

かくして、亜空間の如く異様な空間が出来上がってしまったのであった。



****



ふぉ()おー(よう)…」


時は戻って現在。

込み上げてくる欠伸を一切抑えようともせず、大きな口を開けて不明瞭な挨拶をしながらのんびりとダイニングに入って来た人物に鶫は白目を剥いた。理由は単純明快。欠伸をしながら入って来た人物の頭髪は、澄み切った空を写し取ったような、爽やかな青色だったからだ。

この空間、まだカラフルになるのかよ。

そんな気持ちが現れた結果が、白目だったのだ。

既に、赤、青、緑、金、銀、赤茶、白とバリエーション豊かな色合いの中で例に漏れず、鶫自身の頭髪も見事に特殊な色なのだ。


風呂場では自身の体の数々の裂傷と、それを覆い隠すような蛇を彷彿させる刺青の如き黒い痣に気を取られていたが、その頭髪はなんとも珍妙な色合いだ。母親譲りの他人と比べて少し明るいダークブラウンの髪は一房の横髪と襟足が白くなっているのだ。無論、鶫に脱色した覚えはない。実に不思議な現象ではあるが、この奇抜な集団の中では地味な部類に入るだろう。


「よぉ、ツグミ。おはようさん。もう慣れたか?……って、1日目の朝に慣れたもクソもねぇか。」


食卓に着いている他の人――おそらく眠っている赤茶色の髪の少年以外の食卓に着いている全員には挨拶をし終えたのだろう。トン、と鶫の肩を叩いた青髪の彼は赤髪の少女同様、知り合いのように気さくに話しかけてくる。


「えっと……どちら様で…………フレイさん?」


長身のその体躯を屈めて椅子に座る鶫の顔を覗き込む青髪の男。誰だ、と聞こうとした鶫はその顔に覚えがあった。

見る人によっては無愛想に見えるだろう、アーモンド型の目は十人中八人は目付きが悪い、と評するであろう。釣り上がったその目を縁取る濃すぎる隈が目ヂカラの強さに拍車をかけている。顔立ちは整っているであろうが、その目付きの所為で些か近寄り難く感じる。しかし、普通にしていれば気性の荒さを感じるであろうその顔も、口元を歪ませてニヒルな笑みを浮かべられては、怖いというよりもどこか頼もしく安心する。やんちゃないたずらっ子を思わせる彼の顔は、『夢』の中の彼―――『悪魔』を自称する集団の中の一人、『フレイ』を名乗った男に酷似していた。


「あぁ。そういや、まだ真名は名乗ってないんだったか。真名はヴォルカ・カトラシオンで、コードネームは知っての通り『フレイ』。真名もコードネームも炎繋がりだし、分かると思うが『属性』は火だ。これから一緒にやっていくんだし、ヨロシクな。」


ニッとやんちゃ小僧のように笑い、手を差し出して鶫に握手を求めるフレイ―――否、ヴォルカ。目付きの悪さなどに負けないくらい取っつきやすい雰囲気のヴォルカの手を取る人はおそらく少なくないだろう。だが、そんなヴォルカに対して鶫は―――――。


「コードネーム?真名?一緒に、って……何を?属性?火?つまり火属性?何それド○クエ?いや、ポケ○ン?」


盛大に混乱していた。

見知らぬ場所に自分の部屋があった時よりも、そんな場所で自分が目を覚ました時よりも、見知らぬ少女に知り合いのように話しかけられた時よりも、その少女が風呂場の鍵を壊してまで入浴中に乱入して来た時よりも、自分の影から人が出て来た時よりも、激しく混乱していた。今まで混乱しなかった訳では決してない。しかし、混乱よりも動揺が勝っていたが為に、混乱していないように見えていた。

この時の自身の状態を、鶫は後にこう振り返ることとなる。

――――あれだけ散々、思考放棄を繰り返しておきながら、何故この時だけは()()()()()()()()のか、と。

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