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非日常の世界へ〜12〜

ペラリ、とスケッチブックを捲り、ヘルはまた何かを描き始めた。先程のサラサラとした動きとは対照的にゆっくりとした動きである。そしてその手を一切止めぬまま、鶫への説明を再開した。


「人間の言う「願いを叶える力」って言うのは地界の奴らのと天界の奴らのじゃ似て非なるものでな。

俺たち悪魔が使うのが『魔法』って呼ばれてる。」

「魔法…?あの、お伽話に出てくるようなあれですか?」


シンデレラ、人魚姫、オズの魔法使い…etc.。『魔法』と聞いて鶫の頭には幾つか幼少期に読んだ絵本が浮かぶ。確か、どれも魔女が出てきて魔法を使っていたはずだ、と鶫は朧げな記憶を頼りにヘルに尋ねる。

ヘルは首を縦に振り肯定を示すと、スケッチブックに走らせたペンを止めずに鶫の質問に答える。


「あぁ。ありゃ、本来人間にゃ出来ねえもんだ。

それを可能にしちまってるからお伽話なんだろうがな。

さて、この『魔法』だが…使うには当然エネルギーが必要になる。そのエネルギーが『魔力』だ。まぁ『魔力』なんて大層な呼び方されてるが、人間の生命エネルギーと何ら変わりない。

使えば減るし、休めば回復する。減りすぎれば当然、肉体に悪影響が出る。底をついちまえば消滅…人間の死と同じことが待ってる。栄養失調や過労死って言ったところか。」


そこでヘルは一旦言葉を切る。そしてこんなもんか、とペンを置き少し離してスケッチブック全体を眺め何かを確認する。

くるりと時計回りで180度スケッチブックを回転させて鶫に今しがた完成したページを見せるヘル。しかし、そこに描かれているものに鶫は首を傾げた。

そこには3人の人…と思われるものが横一列に並んで描かれていた。と、言うのも3人のうちの左右に描かれているものが人かどうか定かではないからだ。

3人全員、キチンと頭があり胴があり四肢があり二本の足で立っている。

だが、鶫から見て左側に位置する人物は三叉槍のようなものを携えており、頭部には細長い三角形がちょんちょんと乗せられている。人にも見えるし犬にも見える。そんなようなものだ。

そして、鶫から見て右側に位置する人物は長い杖のようなものを持ち、鳥なのか人なのか分からない容姿をしていた。

まるで古代エジプトの葬祭文書、『死者の書』を見ているようだ、と鶫は不思議な気持ちになる。

そしてそれは鶫だけではなかったらしい。


「何これ…?死者とアヌビス神と…トト神?それともホルス神?」


ひょっこりとその絵を覗き込んだゴートが首を傾げてぼんやりと呟き…


「……古代エジプト…?壁画?」


ジッと絵を見つめてハッと気づいたようにククリが尋ね…


「いや、悪魔と人間と天使の三種族だろ。クロさん画伯なんだからそこら辺汲んでやれよ。」


デリカシーの欠片すら存在しないフレイの厳しい声が炸裂する。

だがしかし、フレイの指摘に鶫、ゴート、ククリの三名は納得の声を漏らす。言われてみれば、確かに。それぞれ悪魔、人間、天使に見えなくもないのだ。


「確かに……悪魔と人間と天使だ……。クロさん、なんで絵を描いちゃったの……下手なんだから無理しないで……ツグが余計に分かんなくなっちゃうよ…」


追い討ちと言わんばかりに飛んで来る、ククリの言葉。オブラートに包む、と言うことを知らないその言葉は見えない刃となりヘルにグサリと突き刺さる。


「お、俺が説明し易くなるから良いんだよ!」

「それで相手が分からなかったら、ホンマツテントー…」


自分の絵が独特である事に自覚があるらしいヘルはククリに反論するが、その反論に対してもククリは容赦なく返す。そのククリの言葉がきっかけとなり、ヘル、ククリ、ゴート、フレイの四人は激しい口論に身を投じる。

こうしてまた、鶫は置いてけぼりを食らったのだ。


「やれやれ全く……悪魔というのはこれだから…」

「あ、ラバちゃん。」


やれやれ、と溜息と共に首を振ってククリからやっとこさ解放されたイララバが鶫の膝の上に戻って来た。呆れたような声色の彼はぴょんと身軽にジャンプして鶫の膝に飛び乗り、本物の猫さながらの動きで体を丸めて大きな欠伸一つ、を零した。


「悪魔というのは種族柄、マイペースな者が多くてな…。この騒ぎも暫くは収まらんだろう。故に、これより先はワタシが説明しようと思うのだが…どうだろうか?」

「うん、じゃあ…よろしくお願いします。」


鶫の膝の上で背中を撫でられ、ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすイララバは、任された、と頼もしく答え、ヘルの説明を引き継いだ。しかし、飼い猫のように喉を鳴らして寛ぐ姿はなんとも気が抜ける。


「そもそもの話、悪魔や天使と言った種族は人間から進化したとされている。」

「え?そうなの?」

「うむ。その証拠に人間には人間には極微であるが魔力とマナ…天使の持つ魔力のようなものの両方が備わっておる。」


イララバは鶫の手から抜け出ると、投げ出されたスケッチブックとペンを手に取り、件の古代エジプト風の絵に書き込みを入れる。――中身はともかく、短い両前足を駆使して一生懸命に書き込む様は中々の癒し効果が期待できそうだ。

そうして3人のうちの真ん中…恐らく人間であろう者の丁度胸の辺りに、イララバは全く同じ大きさの黒丸と白丸を書き込む。それが終わると今度は悪魔と思われる方に大きな黒丸を、天使と思われる方に大きな白丸を書き入れる。


「このように、人間の持つ魔力やマナは極めて少量。故に、魔法や何やらが使えることはない。しかし、これだけの量があるなら我々が人間から魔力を頂き、魔力を回復させることが可能だ。」

「それが、魂を取るってこと?」

「それは前近代的な考え方だな。確かに、昔は魂を奪えば魔力が回復すると考えられていた。しかし、ここ数百年でそれが過ちであると分かってな。今では魂を奪うなどと言う悪魔はそうおらん。」

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