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非日常の世界へ〜10〜

「ちゃんと話してくれないなら、貴方をここで罰さなくちゃいけない。貴方の“魔力”が途切れれば彼も元通りだよ?

そんなこと、したくない。……貴方だって、彼を死なせたくないでしょう?」


ちらりと鶫を見て、ククリが先程までのまったりとした雰囲気が嘘であるように厳しく咎める。ククリに正面からじっと見つめられ、イララバは言葉に詰まる。だが発言を撤回する気は無いらしく、視線を逸らしてだんまりとしていた。

訳の分からない状況に鶫とフレイは揃って首を傾げ、何かに気付いたらしいゴートが「ははぁ〜ん」と怪しく笑う。


「なるほどなるほど…そーゆーことですかぁ…!

良いですね!実に良い!!揃いも揃って面白い「訳あり」だなんて!!うんうん、2人共採用です!拒否権はありませんよ!!」


乳白色の仮面にぽっかりと空いた穴から爛々と赤い瞳を光らせてゴートは興奮を露わにする。そして大した説明もしないまま、「いざ報告へ!」と席を立とうとする。周りの一切見えていないゴートのパーカーのフードを引っ張り、フレイが本日何度目かの深い溜息を吐いた。


「待て待て待て待て。お前ら2人…3人納得してんじゃねえ。そこだけで解決すんな。ちゃんと説明しろ。」

「え…ツグはともかく…フレイも分かってないの…?あり得ないんだけど…」

「悪かったなぁ…!」


何一つ状況の読めないフレイが説明を求めれば、ククリが、嘘でしょ、と目を丸くする。言葉は勿論、表情でさえもあり得ない、と伝えてくるククリに頬を痙攣(ひきつ)らせてフレイが返す。

対して、フレイにフードを掴まれたゴートはトゥーン、と目に見えてテンションが下がる。幼子のようにむぅ…と不貞腐れたゴートはぽすん、と軽い音を立ててソファーに逆戻りする。


「ちょっと考えれば分かることですよ〜。

存在を認知しない鶫さんの両親、憑き人が必要な程弱った悪魔、イララバさんの異様なまでに弱い“魔力”……。加えて言えば、鶫さんはイララバさんを『ラバちゃん』と呼んだ。そして、『三ヶ月もどこに行ってたの』とも。

つまり、イララバさんは頻繁に鶫さんに姿を見せていた。」

「……だから?」


ヒントだ、とでも言うように一つ一つの情報を口に出して整理するゴート。いまいち要領を得ないゴートの解説に苛立つフレイ。結論を催促すれば、ゴートは両の手で自身の顔を覆い、嘘でしょ…とククリと同じような反応を示した。


「簡単に言っちゃえば鶫さんは一度死んだことがあって、イララバさんは“魔力”の大半を鶫さんの身体に入れることによって生かした。つまり鶫さんは今人間じゃなくて、イララバさんの“魔力”によって生きている“半魔”。

……そう考えれば色々説明がつくんですよ。」

「ちょ、ちょっと待て!!半魔だと!?そんなん、伝説上の話じゃねえか!!現実見ろ!!」


ゴートの解説は腑に落ちない、と声を荒げるフレイ。そのフレイの大声にゴートは迷惑そうに舌打ちする。まさに一触即発の殺伐とした空気が流れ始めたその時、奥へと繋がるのであろう扉の方から小さな物音がする。


「俺たち“悪魔”だって人間にとっちゃあ想像上の存在だろうが。半魔がいたってなんもおかしくねえよ。

ちったぁ頭柔らかくして考えろ。」


全く予想していなかった場所からの声にその場の全員の目が行く。振り向いたそこには、ドア枠に寄りかかるようにして立っている細身の男がいた。


「クロさん!」

「クロさん!!?寝てなくて良いのかよ!?」

「そう思うなら少しは静かにしろ。五月蝿くて眠れやしねえ。

あとゴート。客が来てようがククリの魔力くらいは抑えてやれ。」


長い黒髪を揺らして男はいつの間にか隣にいる少年の頭を撫でる。ツノの有無や目の色など、悪魔らしさがなくなったことを除けば、頭を撫でられているのは紛うことなきククリだ。

クロさんと呼ばれた彼はスタスタと歩くと何処と無くしょんぼりとしているフレイとゴートの肩を軽く叩くと、鶫とイララバに向き合う。


「見苦しいもん見せて悪かったな。

一応、ここの責任者をしてるもんだ。今は『ヘル』と名乗っておこう。

さて、何がなんだかわからないと思うが…少年、何か質問はあるか?」


フレイとゴートの2人を簡単に宥めてしまった男性は琥珀色の瞳を細めてにこりと笑う。そして、簡単な自己紹介をすると呆然と自身の顔を見つめる鶫に話しかける。話しかけられた鶫は、パクパクと酸素を求めるかの如く口を開け閉めさせ、パニックになっていることを隠さずに伝える。


「えっと…本当にもう、何がなんだかさっぱりで…。

一体なんなんですか?魔力とかツキビトとか…ハンマ?とか…。そんなファンタジー要素、いりませんよ。何ですか、人間じゃないって…いや、そもそも!!何で僕が死んだって…!!そんな訳ないじゃないですか!!

だって、なら…ここにいる僕は?自分が死んだことに気付いてない幽霊だと…?なら、クラスメイト達は?僕に普通に話しかけていたクラスメイト達は?」

「おーけー、おーけー。本当に何も知らないんだな…。なら、今からちゃんと説明する。つっても、少年からすりゃ考えられないような話だ。

けど、嘘じゃねえ。真実だ。コッチも巫山戯てるつもりはない。それだけは分かってくれ。」


いきなりの人外通告に半狂乱になって狼狽える鶫。取り乱す鶫に嫌な顔一つせずに宥めたヘルは、神妙な面持ちで鶫にいいな?と尋ね、鶫は困惑した頭のまま、首を縦に振った。

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