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入り組んだ路地裏にある悪魔の住処

「えっと…『このコンビニの裏から真っ直ぐ行って一つ目の角を右、そこから三つ目の角を左』…って、コンビニの裏ぁ!?」


黒いブレザーにグレーのズボン。

明らかに学校帰りの少年は己の手の中にある黒い端末の画面を見て素っ頓狂な声を上げる。

偶々コンビニの中から出てきた女性が少年の声に驚いたようにビクリと肩を跳ねさせ、それに気づいた少年はバツの悪そうに会釈をしてそそくさとその場を離れた。


「コンビニの裏なんて入れる訳ないじゃん。柵あるし、鍵かかってるし、何より不法侵入じゃん。」


端末の画面を覗き込む少年の苛立ちを示すかのように、耳につけた真っ白なイヤホンがぷらぷら揺れる。ぶさくさと文句を言いつつも、ぐるりと裏手に回った時、少年はそこに道がある事に気付いた。

人が通るのがやっとなくらいの幅で、薄暗く奥が見えないそこは俗に言う「路地裏」で。


午後4時。

もうすぐ日が暮れる時間帯であるのも手伝って、少年はそこに入るのを躊躇する。一歩でも足を踏み入れれば異世界へと迷い込んでしまいそうな、妙な感覚に陥る。

数十秒の逡巡の後、少年は意を決してそこに足を踏み入れた。




一つ目の角を右へ、三つ目の角を左へ、四つ目の角を左、九つ目の角を右、七つ目の角を右へ。端末の表示する道順に沿って歩く。


「に、しても……見事なまでの忌み数だなぁ……。ここまでくると本気かもって思ってくるよ。けど、最後だけはラッキーセブンなんだよなぁ。悪魔も幸運とか好きなのかな?」


薄暗い中煌々と輝く端末の画面に目を細め、少年は誰に言う訳でもなく呟く。端末を見れば、最初の角を曲がってから最後の角を曲がるまで30分が経過していた。思っていたよりも時間がかからなかったことに驚きつつも、少年は次の行程へと移る。


「んーと…『49歩歩いたところにある階段を13階上がって4番目の扉を6回ノックして、呼び鈴を6回鳴らす』…13階も上がるの!?階段で!?きっつい…。てか、また忌み数だし…。徹底しすぎだよ。」


端末が映し出すサイトに書かれた指示の細かさや思わぬ運動量にげんなりしつつも、少年の頭に引き返すという選択肢は無い。一歩一歩、しっかりと口に出しながらサイトの指示通りに下を向いて歩き出した。




49歩進み、階段を13階上って4番目の扉の前に息も絶え絶えに辿り着いた少年は耳からイヤホンを引っこ抜き深呼吸して息を整え、ノックを6回と呼び鈴を6回鳴らす。ミドルブラウンという明るくも暗くも無い木製の扉は板チョコのように四箇所が窪んでおり、この廃れた路地裏に似つかわしくないほどオシャレだな、などと少年は呆然と思う。

程なくして、ダンダンダンダン!!と乱暴な足音が聞こえ、ガチャリと鍵の外れる音がする。


「うるっっっせぇんだよ!!!誰だ6回も呼び鈴鳴らしたヤツぁ!!一回で十分だわ!待てねぇのか!!」


そんな怒号と共に乱暴に開けられたミドルブラウンの扉は少年の額を強かに打ち、少年は呻き声を上げて悶絶する。こんな漫画みたいなことが現実に起こるのか、と少年は要らぬことを考えて痛みを誤魔化そうと努めるが、あまりその効果は得られない。痛みを紛らわすこともできず、かと言っていつまでも悶絶していては相手に失礼ではないか、と少年は痛む額を抑えて顔を上げ相手を見る。


「…なんだ、アンタ?」


少年が顔を上げるとそこには、扉を開けたままの体勢で固まる少年とそう変わらないであろう年の背の高い少年がまるで不審者でも見るかのような目で少年を見下ろしていた。室内にも関わらずキャップをツバを後ろにして被り、ヨレヨレの黒い半袖Tシャツに霞んだベージュのつなぎ服を上着を腰に巻くように結んでいる背の高い少年は隈が酷い上に目付きがすこぶる悪く、見下ろされるだけで睨まれているような錯覚に陥る。そんな彼に真正面から対峙した少年は情けなくも「ヒェッ」と掠れた声を上げる。


「…なんか用かって聞いたんだよ。」


あからさまに苛立った声を出す背の高い少年に、少年は萎縮しつつも何か言わなければと乾いた喉を唾で潤す。そして震える唇から紡がれた言葉はたった一言の突拍子もないことだった。


「あ…あのっ!あ、あなたが「悪魔」ですかっ…!?」

「はぁ?」


背の高い少年の視線が不審者を見るものから、変質者を見るような蔑んだものに変わる。しかし、少年は訂正などしない。いや、できない。何せ、噂に聞く「路地裏を住処にする悪魔たち」に会いに来たのだから。そのためだけに学校帰りに2時間半も電車に揺られ、コンビニの裏から複雑な路地裏を進み、階段を13階も上がったのだから。ここで「なんでもありません」と引き返すにはかけた労力が見合わない。少年は恐怖を必死に押し殺して自分よりも幾分か身長の高い少年の目を見つめ返す。それにより、お互いに見つめ合うこと、1分ちょっと。背の高い少年がため息を吐き出すのと同時に、その目が蔑んだものから憐れむものに変わる。


「悪魔なんてこの世にいるわきゃねぇだろ。アンタ、んなもん信じてこんな所に来てんのかよ。いい病院でも紹介するか?」

「あの、いや!結構です!っていうか幾らなんでも悪魔なんて存在しないことくらい分かりますって!!そうじゃなくて…ええっと……ちょっと、その…人には言えない悩みがあるって言うか…叶えたい願いがあるって言うか…。」


尻すぼみになり、しどろもどろにここまで来た理由を話す少年に、背の高い少年は呆れ切ったため息を吐き「なら尚更紹介するぜ?」と言う。


「テメェがなんだろうと知ったこっちゃねぇ。ここはカウンセリング教室じゃねぇんだ。そーゆーのは専門の所に行け。ただ、まぁ…あー……強く生きろよ。」


ぽん、と少年の肩に手を置いて背の高い少年は表情の抜け落ちた顔で少年を見る。それは言葉にするまでもなく、憐れみであった。それを見て少年は自分の中から何かがせり上がってくるのを感じ飲み込もうとするが、飲み込む前にそれはポロっと口から溢れ落ちた。


「そんなにっ!そんなに易々と相談できるようならこんな所に来てないっ!!誰に言ったって同じ事しか返ってこないって知ってるからこんな所まで来たんですよっ!!」


こんな風に感情を露わにするなんて馬鹿馬鹿しい、と頭の隅で考えつつも、少年は息を荒くして目の前の背の高い少年を睨みつけるが、すぐに踵を返して「お邪魔しました!」と半ばヤケクソで叫んで元来た道を戻り始める。しかし一歩足を出した瞬間、カクンと体が後ろに引っ張られ、少年は慌てる。そんな少年を覗き込むように背の高い少年は口元を三日月に歪めて笑っていた。


「まぁ、待てよ。こんな入り組んだ所まで来たんだ。ちょっと茶でも飲んで行け。」


少年が拒否するよりも早く、背の高い少年はまるで猫の襟首でも掴むような気軽さで少年を持ち上げて扉の中に投げ込む。突然で受け身も取れず、背中から地面に着地した少年は何が何だか分からないと言うように目の前にそびえ立つ少年を見上げる。見上げられた少年は不気味なほどに口端を吊り上げて陽気な声で奥に向かって声を響かせた。


「ご新規様一件、承りまァす」

こう言ったちゃんとした小説(?)は初めてになります。

拙い文章でありますが、どうぞ温かい目で見てやってください。また、アドバイス等頂けると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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