壁と卵
旅人が壁に卵をぶつけた。次から次へぶつけた。
「壁め、壁め!」
その旅人は去った。
別の旅人がやって来た。
「壁さん、壁さん、どいとくれ」
通りすがった人がそれを嗤った。
「壁が動くものか」
怒った旅人は卵を壁にぶつけた。
「壁め、壁め!」
旅人は去った。
また別の旅人がやって来た。
「壁さん、壁さん、どいとくれ」
やはり別の通りすがりがそれを嗤った。
「壁が動くものか」
その旅人は回り込んでまた言った。
「壁さん、壁さん、どいとくれ」
壁は動いた。
壁は実は象だった。
通りすがりは怒って言った。
「お前のせいで幾つの卵が無駄になったかわかってるのか」
「わかってますよ。誰も卵を投げた奴を怒らないってことは」