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水神様の覚悟

「俺が祈ります。水神様とのご縁は金次郎さんほど強かぁないですが、これでも力は強いんで」



主が声をかけると、水神様は漸く主に目をとめた。



「お主は……」


「ただ、お見受けしたところ、水神様も随分消耗なさっておいでで。無理に力を使えば、御身もただでは済まねえんじゃ?」



そうなんだよねえ、水神様が御姿を現して如実に分かる、この神気の薄さ。下手を打てば水神様自体が御姿を保てぬほどに、水神様の神気は疲弊していた。これも銀之助が奉公人の信心まで取り上げた結果かと思うと本当に腹が煮える。



「妾は良いのじゃ。人に必要とされねば、自然と一体となるのも妾の定め」



それでも水神様は鷹揚に笑って見せた。腹に含むところもない、綺麗な笑み。



「そこな男、お主が祈ってくれるのじゃな。よかろう、この渇いた気には妾も気を揉んでおった。最後に雨を呼べるなら本望じゃ」


「待って……待っておくれ!そんな……水神様の御身を害するつもりでは」


「よいのじゃ、力も使えぬままいつか時が来て自然に還るより、妾は人を救いたい」


「ならば、せめてこの金次郎に祈らせてはいただけませぬか」


「金次郎……お主には、妾を封じようとするほど、お主を大切に思うておる家族がおろう。大事にしてやるがよい」



水神様はまたほんのりと笑っている。


わっちには理解出来ないねえ、銀次郎が井戸を封じ祠を壊したといえど、それしきで本当に神を封じられるわけじゃないだろう?本当に水神様の力が衰えたのはもっと後、人の信心がなくなってからだ。それでも人を守る義理なんざなかろうに。


さながら観音さまみたいな慈悲深い顔をして、唇の端をやんわり上げた水神様はえらく神々しく見えた。



「どうだい銀之助さん、あんたのいうアヤカシは、随分と堪忍の効くお方だねえ」



一言ちくりと言い放ち、主がゆっくりと水神様に近づいて行く。もう、月が天の高いところにある。そろそろ潮時なんだろう。



「水神様、そろそろ」


「うむ、妾の力が足りぬ分、お主に負担をかけるやも知れぬ。許せ」



すると主は、顔を綻ばせ、わっちをひょいと抱き上げた。



「秘策がありますんでね」



わっちを水神様の前でブラブラ振るなんて、やめておくれよ!わっちになんの関係があるっていうんだい⁉︎



「おや、お前……」


「どうです?知ってる気配があるんじゃねえですか?」



水神様がふふ、と笑う。



「ああ、懐かしい。お前、白龍の眷属だね」



白魚のようにたおやかな手が、わっちの体をついと撫でる。

わっちの体に、涼しくも清浄な水神様の神気が、薄く薄く彩られた。

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