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つれづれ、なるがままに

面接

作者: 奥野鷹弘

「失礼します。

 面接を受けに来た、『山田太郎』と云います。本日は忙しい中、ありがとうございます。」

 職場へ走って来てしまい汗をかいている額を気にしながら、窓口の女性の方へと僕は挨拶をした。緊張をしながらも挨拶がしかりと出来たことに産まれて初めて安堵した。 


「では担当の者を呼んできますので、座って待っていてください。」

「ハイ。」

 案内された女性に対し、勝手に気持ちが先走ってしまいこの人と面接するんだ・・と想像を掻き立ててしまい、何に対して返事をしたのか正直わからなかった。ただ、座ってみてはじめて、いや違うと断定することが出来た。



 戸の向こうから、コツコツと革靴の音が近づくほどに緊張感が増した。押さえ切れなかった気持ちと挨拶をしなければという両方の気持ちで、せっかくのスーツをクシャクシャにしながら立ち上がってしまった。戸が開いた先にいる男性は、言葉に出来ないほどカッコよかった。感情的な意味合いではなく、仕事を果たすという責任を背負った男性に、輝きを感じたのだった。見惚れてしまったことに気付いた後に、ようやくスーツの身だしなみのだらしなさに僕は気付いたのだった。


「では…、履歴書をもらっても良いですか?」

「ハイ。」

 恋をしているわけでもないのに、口を開く姿まで惹かれていった。A4履歴書・クリアファイルが入るようなギリギリのカバンを選んでしまったために、かなりもたついてしまった。でも、履歴書を封筒に入れ、素で持参しなっかったのでプラス評価されたいと奥底で祈った。


 そんなことは構わず面接官の男性は、封筒に入ってる履歴書をサラッと親指と人差し指でつまんで出して確認をした後に、僕を舐めまわすように眺め、口にした。


「お名前は?」

「山田太郎と、云います。」


「生年月日は?」

「1992年12月9日産まれです。」


「2x…なんだね。まだ、これからっていう年齢だね。」

「ハイ、ありがとうございます。」

「いきなりだけど、どうしてここに所属しようと思ったの?」


 優しく見えていた男性はギョロッとした眼で、僕に眉間にシワを寄せた。

 僕は一瞬、『コレがトラウマで、正直に答えられないんだよ~』と心の中で叫びつつ、必死に口を動かすことに専念した。


「この会社は僕にとって、おおいに成長できると感じたからです。業務や仕事というだけの気持ちではなく、大人として人間としてスキルを身につけたいと思ったからです。」

「太郎くんさ、中退とか…バイトをすぐ辞めてるみたいだけど、ここの会社は大丈夫かい?」


 男性は手にしていた履歴書をポンッと投げやりに机に置いた後、監視カメラの映像を見つめ、何故かため息をついた。僕は、そんな風に呟かれたことに対して、昔のことを思い出し投げ出しそうになった。

 ただ…これは人生を切り開くための試練。胸の痛みを抑え、頭を動かしていく。


「すぐにリタイアしてしまぬよう努力して行きたいと思っています。宜しくお願いします。」


 厚かましいとはいえ、嫌みたらしいとはいえ、自分にも言い聞かせるつもりで僕はそう答えをだした。








「よしっ。キミ、採用ね。」



 ドギマギしながら答えてる僕に対して、男性は握りこぶしを作りかけた。理由はわからない。

 だが、僕の方を向いて微笑んで、そして口を酸っぱくしたような顔つきで僕に助言した。


「色んな出来事が振りかかってくると思うけど、そこは一人で対処しないこと。ここの会社にはルールがある、規律がある、常識がある。まずはそれを守って働いてくれ。解んないことがあったら、聴くこと…そのために社員や人生の先輩方がいる。いいか?採用されたからって、自分の身体を無理してまで夜更かしするな。朝9時に出勤してこい、ミーティングがある。わかったか?」



「ハイ、ありがとうございます!」


 僕は嬉しいんだか始めて面接に合格したことに怖いんだか、戸惑いを隠せないでいた。今までどれだけ落とされてきたことか…。もしかしたら、僕はいい会社に面接を受けに来ていたのかもしれない。


 とにかくもう、嬉しすぎてなんて表現していいのかわからない。


「では、そういうことで。終わります。これからは、山田さん、宜しくね。」

 面接をしてくれた男性は丁寧にお辞儀をしてきて、僕を見つめた。

 僕もつかさず「お忙しいところ、失礼しました。」という謝礼もプラスして、場を後にした。



 新たな扉を開いた世界は、果てない青紫色だった。

 何千何億という人間の中に、僕はここに生きている。

 宇宙にある星のひとつになったみたいな感覚だ。



 良かった・・・。



 やっと職に就いた。『フリーター』という自分の個性を見つけたり、磨けたり、活かせたり、最大限に自分が生かせる職場に僕は就職したんだ。



 ・・・就職できたんだ。

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