第四話
第四話〜憂鬱な雨〜
今日は雨が降っていた。朝からずっと空は暗い色に染まりお姉ちゃんも朝からいない。学校に用事があるらしいんだけど別に何の用事かは聞かなかった。お姉ちゃんにだって好きな時間に好きな事をする権利はあるんだもん。
私はお姉ちゃんが早く帰って来ることだけを考えながら家の中でまったりと過ごしていた。お姉ちゃんがいない家の中は沈黙が支配して周りのBGMは時々付けるテレビの音だけで面白くも何とも無かった。
「私がどんどんお姉ちゃんがいなくちゃ何も出来ない子になってる……一人で留守番する事さえも辛いなんて……」
『ニュース速報です。近日●●市△△地区を騒がしている高校生のみを狙った連続通り魔事件ですがまた犠牲者が発生した様です』
お姉ちゃんが被害者と決まった訳でも無いのに私は画面に食い入る様に見入ってしまった。お姉ちゃんの事となると我を忘れてしまう自分がいる事に驚きながらも、もっと驚いた事がある。それは私のお家の電話が急に鳴り響いた事だ。
『プルルルルプルルルル春希様よりお電話です。プルルルルプルルルル』
最近の電話は高性能で相手の名前を呼んでくれるシステムが搭載されているのだ。私はお姉ちゃんの電話がこれ程嬉しかった事はなく、少し涙ぐみながら受話器を取った。
「お、お姉ちゃん? 秋菜だけど?」
「あ、秋菜ちゃん? って、家には秋菜ちゃん以外いないよね。えへへ、今ちょっとだけドジな事しちゃってさ……お姉ちゃん少しさ、ニブイって言うかトロイって言うか……そんな所あるからさ……入院中なんだよね? お見舞いに来てくれると嬉しいかな。理由はまた来てくれたら話すからさ……あれ、秋菜ちゃん、秋菜ちゃん、あ、秋菜? 秋菜ってば!」
私は愕然とした。きっと先程の通り魔の所為だと自分の中で勝手に決め付けてしまっていた。
『臨時ニュースです。先程ニュースでお伝えした通り魔が何と逮捕された様です』
そんなニュースはどうでも良かった。受話器も戻さずに鍵だけかけて雨の中を病院まで走った。息が切れるとか、そんな事は無かった。
「お姉ちゃんっ!」
私が病室に駆け込むとお姉ちゃんは頭に包帯を巻いてベッドの上に座り込んでいた。
「あれ……お姉ちゃん?」
「あらら秋菜ちゃんったらどうしたの? 頭から全身ビショビショじゃないの。お姉ちゃんね雨で滑って転んで頭打って気絶してたのを通りがかりの人に助けてもらったんだって。でね、気付いたら病院にいたの」
「よ、良かったぁ……私てっきり……」
緊張状態がとけたら急に足に力が入らなくなった。ベッドの上にドサッと倒れこんでしまう。
「秋菜ちゃん。こんなビショビショの状態だと風邪引くよ。ほら、私の制服着る?」
お姉ちゃんがタオルで私の頭を笑顔で優しく拭いてくれる。その優しさや笑顔に私は涙を堪えきれなかった。
「お姉ちゃんのバカ……電話でちゃんと言ってよっ! 最近通り魔とかあるからすっごく心配したんだよっ!? そんなに私に心配かけて楽しい? もうお姉ちゃんなんて大ッ嫌いっ!」
私は布団に顔をこすりつけながら泣いた。もうかれこれ何年も泣いていないと思う。私は嬉しかった。お姉ちゃんが大した事無かった事に……でも、私の口から溢れ出るのはお姉ちゃんを批判する言葉ばかり……
「あらあら、秋菜ちゃんに嫌われちゃった」
お姉ちゃんは私の頭を撫でながらそう言ってくれる。そんな事をされると……余計涙が止まらなくなっちゃう。私はお姉ちゃんの胸辺りに抱きつくと涙を堪える様に泣いた。お姉ちゃんの優しさはズルイ……
「バカ。お姉ちゃんのバカ……私に心配ばっかりかけて……最後には優しくして私の心はそれで全部許しちゃう……バカ。お姉ちゃんのバカ、私の……バカ」
「お姉ちゃんはバカかも知れないけど……秋菜ちゃんはバカじゃ無いよ。何てったって私の妹なんだから」
どこから出る根拠か判らないけど自信満々に言うお姉ちゃんの真顔に私は笑いを堪えられなかった。
「ぷ……あはは。な、何それぇ〜お姉ちゃんの妹だったら私もダメ人間になるって意見が一般だと思うんだけどなぁ〜」
「わ、私だってやる時はやるんだよ? こうやって秋菜ちゃんと一緒にいてあげられる事も出来るし……ね?」
「う、うん……お姉ちゃん。そ、その……ゴメンね? 大嫌いとか言っちゃってさ」
「そんなのもう良いの……秋菜ちゃんがもし嫌いになっても私はずっと好きでいるんだから……それより秋菜、こっちおいで疲れてるでしょ?」
私を呼び捨てで呼ぶ時のお姉ちゃんの顔は素敵ででも可愛くて……何だか本当に惚れてしまうかの様な雰囲気を帯びている。
私はお姉ちゃんの布団の中にモソモソと潜り込みお姉ちゃんに抱きついたままその日はず〜っと眠り続けた。離したくなかった……私、こうしてると安心するんだよね……明日からは学校に行けるらしいけど何か良い事が起きると良いな
〜続く〜




