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第三話

 第三話〜妹の変化〜


 時間は昼食前の授業の残り10分前くらいの浮ついた頃。教室で私はお友達とお話をしていた。

「秋菜って自分のお姉さんに毎日お弁当作ってるってホントなの?」

「うん、今日もこの授業が終わったらお弁当届けに行くよ。自分の作るのも二人分作るのも大して変わらないし、お姉ちゃんは一人じゃ料理とか出来ないダメダメ人間さんだからね……」

「特別な感情とか無いの? ほら、好きだから自分の料理食べてもらいたいとか」

「好き……? うん、そりゃ好きだよ。だって姉妹だもん。姉妹同士で嫌いな人なんているのかなぁ? あ、そろそろチャイム鳴るよ」

 私の予想通り数秒後にチャイムが鳴って私達のお話は中断。担当教員の号令と共に私はカバンの中のお弁当をお姉ちゃんに届ける為にカバンを持って教室を出た。


 今日、驚いた事がまず一つ。お姉ちゃんが男の人(多分クラスメイトと推測される)と中良さそうに廊下を屋上に向かってあるいていた。何だかムカムカする気分が私の心の中を埋め尽くしていた。お姉ちゃんが男の人といた所で私には関係無い事なのに何故か気になって屋上まで追跡してしまう。


「俺……春希さんの事が……」

 これは何をどう間違えても告白と呼ばれるシーンなんだよね。お姉ちゃん美形だし可愛いから告白の一つや二つくらいあってもおかしくは無いんだけど、私に内緒で告白するのが許せなかった。

「ちょぉ〜っと待ったぁっ!」

 私は屋上のドアを思いっきり押し開けて屋上に侵入した。風が強くて少しふらつきそうになったのをお姉ちゃんが支えてくれる。全く……頼りになるんだかならないんだか全くわかんない……

「あの……ごめんなさい。私、アナタじゃ無い人が好きだから……」

 私の頭を金槌で殴った様な痛みが突き抜けた。お姉ちゃんに……好きな人がいるなんてそんな事一回も話してくれた事も無かった。私に話した所で何が出来た訳じゃ無いかも知れないけど、それでも話くらいは聞いてあげたかった。

「どうして言ってくれなかったの。お姉ちゃんに好きな人がいるって……」

「秋菜ちゃんに言っても仕方無い事だよ……いつかは言おうと思ってたけど……中々言い出せなくって……」

 もう男子先輩は屋上から消え去っており、私とお姉ちゃんの二人だけが残されている。

「少し……時間があるからお話しようか?」

 お姉ちゃんが地面に座り込んで私を手招きする。良くスカートなのに座り込めるなぁとか思いながらも私はお姉ちゃんの膝の上に乗っかる。

「私の好きな人ってね……とっても可愛くて優しいの……料理も上手だし、掃除だって出来て……私の知ってる中で一番完璧な人だと思う……」

「どうして私じゃ無いの……私も料理できるし、掃除だって……そりゃ可愛くなかったり優しくなかったりはするかも知れないけど……」

 私が泣きそうになっているとお姉ちゃんが私を背後からギューっと抱きしめてくる。とても暖かく、包み込まれる様な感覚……

「何を言ってるのかが理解出来ないんだけど……秋菜ちゃん、私の胸の音聞こえる? ドクンドクンって……それに、好きじゃ無い人にキスしたり、抱きしめたり……私は絶対にしないよ……?」

「え、それって……」

「今、私の膝に座りながら涙を必死で堪えて肩を震わせてる……そんな子が好き……私は秋菜……アナタが死ぬ程好き……」

 そんな事を急に言われても返事に困るけど……お姉ちゃんが真面目な顔をして私の事を呼び捨てにする時って体が熱くなって、心臓が爆発しそうなくらいドクドク動く。

「そんな……急に言われても……ってかお姉ちゃん重い、体重かけないでよっ!」

 私の声には何の反応も無かった。

「寝て……る? わぁっ! ヨダレ垂らすなぁ〜」

 とりあえず起こすのも可哀想なんで、ヨダレを拭いてから膝枕してあげる事になってる訳ですけども……

 風が頬をなぶるのが気持ち良い。お姉ちゃんの今の言葉……一人じゃ何も出来ないお姉ちゃんが私を必要としてくれてるというのはとても嬉しい事。でも……

「こ〜んな大事な時に寝ちゃう良い加減なお姉ちゃんだからなぁ……何と言うか信頼はしてるんだけど……本気かどうか疑っちゃうなぁ……」

 お姉ちゃんの膝の上は暖かくてとても居心地が良い。居心地が良いのはお姉ちゃんの側にいるならどこでも一緒なんだけどね。

 失いたく無い。とても大きな存在としてお姉ちゃんはいっつも私の心の中に入り込んでくる。でもお姉ちゃんの心の中に私はいるの?

「秋菜ちゃん……ず〜っと一緒……誰にも……渡さ……ないよ」

 お姉ちゃんの言葉はいつも私の心の深い所まで浸透してくる。本気かどうかは判らないけど、今だけは信じてあげても良い気分だった。お姉ちゃんの膝の上から立ち上がり隣に移動してから私の肩にお姉ちゃんの頭をもたれかけさせお姉ちゃんと一緒に私も少しだけ眠る事にした。この幸せな一秒一秒を……私は宝物の様に大切にしたい。だって、大切な時間と大切な人はいっつもすぐいなくなる事を私は知っていたから……


〜続く〜

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