5-1 友人達の確信
「 お前、嫌われてはいないと思うよ」
仕方なく再度腰を下ろし、先程思い当たったことを善太郎に伝えた。
「 なんだとこの野郎!さっきは嫌われてるとか言いやがったくせに適当ほざいてんじゃねえぞ!」
善太郎が普段の半分ほどの声量で吼えた。人としてこれくらいで十分だとは思うが、物足りない様な気がする自分に危険を感じる。
善太郎の騒々しさに慣れてきてしまっている様だ。
しかし今日の善太郎の様子を見ていると、普段のこいつの騒がしさがどれほど周りを明るく賑やかな雰囲気にしているのかを認識させられる。
内容により不快にさせられる場合も多いが。
「 落ち着け。その後思い出したんだよ。サエちゃんの弟さんをお前が木から下ろしたことがあったろう?」
「ああ。それがどうした」
しばらく前に、彼女の弟を善太郎が救助しているところに行き会ったことがあったのだ。
その子供は増水した川にさしかかる木の枝から下りられなくなっていた。
私は興奮したサエちゃんを抑えるために善太郎に呼び止められたのだが、あの時のサエちゃんは尋常ではない取り乱しようだった。
「 あの時サエちゃんはお前を頼って助けを求めてきたんだろう?」
善太郎は少し期待していたらしい顔をまた悄然とさせて俯いた。
この能天気極まりない男を俯かせるサエちゃんに心底感心する。
「 何だよそのことかよ。そりゃあ近くに知った奴が俺しかいなかったからだろうが」
「 まあ、それはそうかもしれないな」
「 なんだとてめえ・・・・・」
言い返す気力も続かないらしい。
「 だが、枝が折れてお前も危なかったろう?奇怪な瞬発力で他の枝に飛び移っていたけど」
「 奇跡のと言え」
「 ああその奇跡の時、サエちゃんの取り乱しようが普通じゃなかったんだよ」
「 そりゃ弟が危なかったからだろ。ぬか喜びさせんじゃねえよ」
そう言うと、善太郎は再び胡坐の中で持つ椀に視線を落とした。
「 ぬか喜びねえ。そうとも思えないけどね」
子供に関わる場面ではなかったし、あの時のサエちゃんは善太郎のことしか見ていなかったと断言出来るが、まあ梅ちゃんの友人らしくただの優しさからの心配だった可能性もある。
サエちゃんという子を良く知らない以上、ここはもう言うまい。
清秋を振り返って言った。
「 はい交代。サエちゃんを知ってる君が思うこともあるだろう」
私はしばらく床に置いていた酒の注がれた椀を手に取った。
道場の床に輪染みが出来ているが良いのだろうか。
恐ろしいと噂の赤鬼和尚に善太郎率いる悪餓鬼仲間の一員として認識されるのは避けたい。
大人として恥ずかしすぎる。
床の染みを拭うべく、雑巾を探した。