4 失恋状況整理
「 と言うことは、ええとどういうことだ?お前達がしつこいってことだけが頭に残ってしまったよ」
清秋が嫌そうな顔で私を見ながら答えた。
「 思い合っていると勘違いしていたが、そうじゃなかったと分かっただけだろう」
「 ああ、そういうことか」
「 だけだと、この野郎」
善太郎が何とか言い返してきたがいつもの迫力がなかった。
それにしても十年以上勘違いして来たのか。信じられないな。
「 お前本当に元気がないな。サエちゃんのこと好きだったんだなあ。・・・くっくっく」
善太郎のいつに無く悄然とした様子を見ていたら、笑いがこみ上げてきた。
「 てめえ。笑ってんじゃねえぞ!」
「 くっくっく・・・ごめん。でも、お前も私が梅ちゃんのことで落ち込んでいた時、一々死ぬほど笑っていただろう」
「 ふざけんなよ。あれとは違う。俺は深刻だ」
「 私も深刻だったんだよ・・・。何かに悩んでる人はそれぞれ皆深刻なんだ。・・・・ねえこれやっぱり君の仕事じゃないの?お寺さんなんだしさ」
最後は清秋に向けて言った。
「 ・・・・・」
「 サエに嫁に来る気はあるかと聞いたんだ」
「 ああ。それで?」
善太郎はようやく何があったのかを語り始めた。
しかしなぜ私が進行役を勤めているのだろう?
親友同士が揃っているのなら、私は必要ないのではないだろうか。
兄と元恋敵と過ごすよりも、梅ちゃんに会いたい。
「 頭がおかしいのかと言われた。あんたのところに嫁に来る女なんか居ないとも」
善太郎は胡坐をかいて、じっと両手で持った椀の中の酒を見つめながらそう言った。
今にも泣きそうな様子に思え気の毒になってきた。
「 それは・・・・。きついな。もう泣いてもいいんじゃないか」
「 馬鹿言え。男が女のことぐれえで泣けるか」
そうは言いながら、今にも腕で目元を擦りそうな様子だ。
「 ・・・・・うーん。でも泣きたいほどきついのは確かだろう。今の痛みを覚えて、失恋した人間をからかうのは止めるんだな」
「 うっせえ!ついでに説教すんな!それに失恋はしてねえ!」
私は、少し離れたところに腕を組んでどっしりと腰を下ろしている清秋を振り返り確認した。
「 失恋してるよね?」
「 ・・・・求婚して断られているからな」
「そうだよな」
善太郎に向き直り、考え考え言った。
「 ええと、それにしても強烈な断り文句だな。サエちゃんはいつもそんな感じなのか?梅ちゃんの親友にしては・・・すごいな」
「 いっつも喧嘩腰で煩せえんだよ。照れてんだと思ってたんだけどよ・・・」
「 煩せえって・・・。惚れてる子にその言い草はないだろう」
「 黙れ。サエは煩くても可愛いんだよ」
「 ・・・・・ああそう。君にも煩いのかい?」
清秋を振り返り確認した。私は本当にこの二人の間で何をやっているんだ・・・。
「 いや喧しくはないな。サエは多少辛辣だが裏の無い良い子だ。梅の親友に相応しい」
「 ふーん。・・・・・・ということは、お前嫌われてるんじゃないの?」
善太郎が弱弱しくもこちらを睨んできた。
「 死ね冬之助。お前に梅はやらん」
「 梅ちゃんのことは今関係ないだろう・・・。だがいくら辛辣でも、嫌ってでもいなきゃ求婚されてそんなこと言わないだろう。大体、人を思いやれない様な子なら、梅ちゃんが仲良くしているはずはないしなあ」
一度の面識しかないが、そんな非常識な印象はなかったけどなと考えていて思い当たることがあった。
清秋も同時に何かに思いあたったようだ。後ろから奴の声がした。
「 そもそもお前がサエに惚れているということを、サエは分かっているのか?」
まさかそこから疑わしいのか。
「 ああ?嫁に来いって言ってんだぞ。分かってるに決まって・・・・お?」
疑わしい様だな。
「 お前、まずひとりで静かに良く考えな。十日くらい。私も梅ちゃんにサエちゃんの様子聞いといてやるから」
一層面倒な話になりそうな予感がし、腰を上げると善太郎の肩を叩いて場を〆ようとした。
「 待て、てめえ。逃げる気満々じゃねえか」
がっしりと腕を掴まれた私は、念のため清秋の方を窺った。
逃がすつもりはないとばかりに仁王立ちしている青鬼清秋と目が合った。
なるべく早く帰れることを祈ろう。