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兄とサエ  作者: 栗栄太
3/23

3 混乱


善太郎は小さな明かりばかりで薄暗い道場の真ん中に胡坐をかき、清秋に無理矢理用意させた酒をがぶがぶ飲んでいた。

「 で、何があったんだ?」 

「 まさか梅に関わることではないだろうな?」 

清秋が青鬼とあだ名される体格に似合う凄みのある声で言った。

「 梅には関係ねえ。というか梅にはあいつが言ってて知ってんのが当然だと思ってたらよお、何にも知らねえみてえだし。どうなってんだ」 

善太郎は頭を抱えたが、こちらが抱えたいぐらいだ。

「 どうなってんだって、こっちの方がさっぱりだ。君は幼馴染の絆で理解できるのかい?」 

清秋の迫力のある身体に向かって問いかけると低い声が返る。

「 いや、全く分からんな」 

視線を善太郎に戻し、もう一度尋ねた。

「 あいつって誰だよ?そいつが言ってなかった梅ちゃんが知らないのは何?お前は何でそんなになってるんだ?」 

「 煩せえ!いっぺんにごちゃごちゃ言うな!俺も頭がぐっちゃぐちゃなんだよ!」 

善太郎が吼えた。

「 じゃあ、整理してから来いよ・・・。意味ないだろう」 

「 違いないな」 

清秋と二人立ち上がった。



道場で頭を整理している善太郎が梅ちゃんを煩わせないよう、何となく入り口の段に腰掛け見張ることになった。

自然と清秋と二人で飲んでいる体となり、おかしな感じだ。

「 お前と飲むことになろうとはな」 

「 同感だよ。・・・よくあんなのと二十年以上友達やってるね」 

お互い視線を交わすことなく、なんとはなしに話し始めた。

清秋は善太郎と違い年齢以上に落ち着いているので、会話が始まっても月夜の闇は静かな空間のままだった。

「 梅の兄でなければ関わってはいない」 

清秋の言葉尻に含みというか、躊躇いのようなものを感じ、何気なく尋ねた。

「 と、言いたいところだが、って続きそうな感じだね」 

清秋が苦い顔をしていると窺える声音で答えた。

「 ああ、言いたくはないがな。あれで良い奴なんだ等とは死んでも思わんが、あの兄妹は人を信じられん人間にとって救いの場だ」 

「 ああ、全くだね。よく分かるよ。あんなに真っ直ぐな人間はそういないからね。・・・兄は騒がし過ぎるが」 

「 同感だな」 

「 意外と気が合うね。・・・・でもまあ、あの兄妹を気に入っているという部分で気が合っても取り合いになるばかりか。兄の方は君にあげるよ」 

自分が梅ちゃんを手に入れたからこそ言える嫌味だ。

この男の所為でどれだけ悩まされたか。しかもあの子は未だに清秋を実の兄以上に慕っている。

清秋が冷めた目でこちらを見下ろしながら言った。

「 要らん。精々梅を泣かせるんだな。梅はまた俺の胸で泣く」

「 ・・・・・・」 


「 おい!お前ら!整理がついたぞ!こっち来て聞け!」 

善太郎が道場の中から怒鳴った。

「 ・・・・どうして面倒かけてる奴がああ偉そうなんだよ。君の教育が悪かったんじゃないのかい?」 

「 ・・・・・」 



「 俺はサエが好きだ」 

善太郎が唐突にそう宣言した。

「 え!そうなのか?」

「 今更何言ってるんだ・・・」

私と清秋の声が重なった。

「 え?そうなのかい?周知の事実なのか?」 

一応改めて確認した。

「 おう。青が梅を好きだったてえのと同じ位にはな。だがお前がその反応ってことは、」 

「 梅ちゃんは気付いていないと思うよ。聞いたこともないし」 

善太郎の言葉を引き取って答えた。

善太郎はその答えを予想していたようだが、愕然とした表情を隠さなかった。

「 何でだ。青のことは分かる。こいつがわざわざ周りを脅して口止めしてたんだからよ。なんでサエのことを梅が知らねえんだ」 

「 そりゃサエちゃんのことじゃなくて、お前のことだからだろう?兄の恋心なんて妹は知るはずもない。お前の友人の間じゃ周知の事実かも知れないが、なんせお前とあの子達は年が離れてるからね、知らなくてもおかしくはないだろう?サエちゃんがお前を好いていると言うのなら話は別だろうけど」 

私が話す間、善太郎は珍しく黙って聞いていた。

「 どうしたんだよお前。人の話が聞けるようになったのか?」 

驚いて続けると、善太郎のかわりに清秋が答えた。

「 聞いているというより、言葉が出ないのだろうな」 

「 どうして?」 

がっくりと項垂れている善太郎に尋ねた。

「 ・・・・サエも俺を好いてる」 

顔を俯けたままの善太郎が信じられないほど覇気のない声で答えた。

「 ああそうなのか、いつから?」

それならば、サエちゃんが梅ちゃんにその事を話していないのは意外かも知れない。

しかし、それがこの馬鹿みたいに騒がしい男を俯かせる程の事だろうか。

善太郎は私の質問に答るかわりに、呟いた。

「と、思ってた・・・・」

「なんだって?」

意味が分からず聞き返したが、私を無視し続けられた清秋の言葉に慄いた。

「 十年ずっとか」 

「 十年?いつから好きなんだ?」

善太郎がようやく私の質問に答えた。

「 青と同じだよ。物心ついてからずっとだ」 

私は呆れて二人を見た。それじゃあ実質十年を超えるはずだ。

「 お前達は・・・・。二人してどれだけしつこいんだ・・・・」 








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