2 馬鹿な兄で死にそうな友人
「 兄さんと何かあったの?」
次の日、サエ親子が営む店に出向き、サエに重大な問題はなさそうだと確認した後、そう尋ねた。
「 何って何よ。ちょっと待って。お弁当あんたんとこで食べるわ」
サエは一度奥に消えると弁当を手にして出てきた。
「 兄さんと何かあった?」
私の水茶屋に着き、縁台に腰掛け弁当をひろげたサエにもう一度尋ねると、サエは弁当から顔をあげた。
「 何もないわよ」
「 明らかに何か怒ってるでしょ」
「 ・・・・」
サエは仏頂面のまま再び弁当を食べ始めた。
「 あんたはもう少し追及しなさいよ」
「 え?」
自分の弁当を食べ終え、ゆっくりとお茶を飲んでいると、サエが不貞腐れたように言った。
「 もう少し粘って聞いてくれてもいいでしょ。喋りにくいったら・・・」
サエはぶつぶつと言っていたが、話す気になったということだろう。
「 どうしたの?」
サエはため息をひとつ吐いた。
「 あんたの兄さん、頭おかしいんじゃないの?」
「 それは今に始まったことじゃないし、それじゃ何があったのか分からない」
サエは綺麗な顔に似合わない仏頂面で静かに憤っていた。
「 店を継がなきゃいけないから嫁を検討してるんですってよ。相手がいないからって手当たり次第声かけて馬鹿なんじゃないの?」
今度は私がため息を吐く番だった。
「 ・・・・・何やってんのかしら。信じられない・・・」
馴染みの店で飲んでいた冬之助は背後に気配を感じ振り返った。
「 どうしたんだ?珍しく静かだな。死ぬんじゃないだろうな」
一人酒を飲んでいるところへ善太郎が邪魔をしに来るのは常のことだが、こう静かな登場の仕方は初めてだった。
「 ああ。俺はもうすぐ死ぬな。梅のことは頼んだぞ」
善太郎は隣の椅子にどっかりと腰を下ろすなり台に突っ伏した。
「 どんな時も面倒な奴だな。どうして私のところに来るんだ」
ひとつため息を吐くと、善太郎の首根っこを掴んで立ち上がった。
「 清秋のところに行くぞ」
「 なんだお前達」
「 届けものだよ」
清秋の寺に着くと、道場に居た清秋を捕まえ自分より身体の大きな善太郎の背中を押しやった。
「 要らん。面倒なものを持ってくるな。連れて帰れ」
「 断るよ。兄の方は君の担当だろう?もうすぐ死ぬらしいよ」
清秋はもともと愛想のない顔を嫌そうに歪めた。
「 何時俺がこいつの担当になったんだ。梅を自分のものだと言うのなら、兄も面倒を見ろ」
「 うっせえぞ阿呆どもが。人を押し付け合いすんな。お前らが俺の相手をしねえなら家に帰るぞ!」
「 ・・・・・・相手するしかないんじゃないのかい?」
「 ああ・・・・梅に面倒はかけられんな」
善太郎に続き、清秋に促されて嫌々道場へと上がった。