衝撃の展開
お借りしたお題は「ブックマーク」です。
杉村三郎。婚約者の吾妻恵子との結婚を控え、人生のクライマックスだと思っている。
(いや、クライマックスはこれからもある。子供が生まれて、その子が結婚するまで何度もあるはず)
杉村は、すでに生まれてくる子供を女の子と想定しており、名前まで考えていた。
(やっぱり、真耶かな。MAYA。いいなあ、ローマ字でもいい!)
すでに親バカが始まってしまっている。痛い男だ。
「あ!」
杉村はインターネットをしていたが、小説投稿サイトでずっと読んでいる冒険小説「エクスプローラーOKAYA」が更新されているのに気づいた。「OKAYA」をブックマークしているので、更新通知がメールで届くのだ。
(あんな危機的状況に陥って、OKAYAはどうやって乗り切るんだろう?)
杉村はすぐさま、メールに添付されているURLをクリックし、OKAYAの続きを読んだ。そして、読み進めるうちに自分が作者のミスリードに見事に嵌ってしまったのを知った。
(完全に予想を裏切られたな。そんな方法で危機を回避するなんて、さすがだ。この作者、天才だな)
そこまで思って、また作者である「HOTUM」の正体が気になった。
(平井常務が作者だと思ったけど、違っていたし……。もう誰なのか、全然わからないよ)
平井がネット小説を書いていないのは、平井の秘書である武藤綾子から聞いた。平井はパソコンをほとんど使えないそうだ。
「逆に考えたらどうですか?」
綾子に妙な事を言われたが、またからかわれていると思った杉村は気にかけなかった。
「何を思い出して笑っているのよ、気持ち悪いな」
浴室からシャワーを終えてバスローブを羽織って出てきた恵子に言われ、杉村はハッとして彼女を見た。
「いや、この小説の作者が、平井常務かと思ったんだけど、武藤さんによると、常務はパソコンをほとんど使えないそうなんだ。だから、もう誰が作者なのか、全然わからなくなってしまったんだよ」
杉村はバスローブの襟の間からチラッと見えた恵子の胸の谷間にドキッとしながら答えた。恵子は杉村の視線がそんなところに注がれているとは気づいていない様子で、濡れた髪をバスタオルで乾かしながら、
「あれ? 三郎君は、その小説の作者を知らなかったの?」
杉村は恵子が意外そうに言ったので、ビクッとしてしまった。
(え? 恵子もこの小説を読んでいたのか? しかも、作者が誰なのか、わかっているのか? まさか、恵子が書いているのか?)
杉村の「迷推理」がまた始まった。すると恵子は「OKAYA」のタイトル画面を表示して、
「ここにこんなに大きなヒントが出されているのにわからないなんて、案外鈍感なのね、三郎君て」
そう言ってクスクス笑う。杉村は鈍感と言われて、ムッとしてしまった。そして、
「じゃあ、一体誰なのさ、OKAYAの作者は?」
口を尖らせて恵子を見上げた。恵子はますますおかしそうに笑い、
「ホントに気づいていないんだ。タイトルをよく見てよ。作者の名前が隠されているから」
「え?」
杉村はギョッとしてモニターを見つめた。
(作者の名前? どこに?)
いつまで経っても気づかない杉村に呆れた恵子が、スッと「OKAYA」を指差し、
「逆から読んでみてよ。作者の名前だから」
「ああ!」
そこまで言われて、やっと杉村は理解した。
(武藤さんがHOTUMだったのか!? あ、HOTUMも逆から読むと、むとうだ……)
あまりにも驚いている杉村を見て、恵子は半目になり、
「ホントに全然わかっていなかったみたいね」
「あはは、こんなに簡単な事だとは思わなくてさ……」
杉村は照れ隠しに笑い、頭を掻いた。
次回、最終回です。




