夢にまで見た事
お借りしたお題は「夢占い」です。
吾妻恵子、二十五歳。某百貨店の受付嬢と言う花形の職場にいる。同い年の杉村三郎と交際をして、もうすぐ一年になる。よく、「あづまさん」と間違えられるが、今はもう気にしていない。そちらの呼び方の方が多いくらいだからだ。
(最近、どうしちゃったのかな?)
そんな風に思ってしまうくらい、恵子は立て続けに誰かの結婚式に出席している夢を見ている。それほど結婚願望が強い訳ではないつもりだが、もしかすると潜在意識の中では杉村との結婚を急ぎたい自分がいるのかも知れないと考えた。
(もしかして、三郎君にもそういう風に思われているのかな?)
杉村には一度も結婚について話した事はないし、彼からも結婚の事を言われた覚えはない。だが、あれほど夢に見てしまうのだから、自分は結婚したいと思っているのだろうと結論づけた。そこで、夢占いを調べてみる事にした。インターネットで夢の内容を検索し、その意味を探る事にしたのだ。
(友人や身近な人の結婚式に出席する夢は、自分の結婚が近い事の暗示?)
あるサイトではそう書かれており、別のサイトでは逆の事が書かれていた。更に、
(知らない人の結婚式に出席する夢は、良い事がある暗示? でも、先のサイトには停滞を意味するって書かれていた……)
どちらの意味にも取れるようで、あまり参考にはならなかった。
(それはそうよね。人それぞれ、事情が違う中でそういう夢を見るんだから、同じ結論になる訳なんだし)
いい機会だと思い、杉村のアパートに行った時に話してみた。
「え? 結婚の夢?」
恵子に急にそんな事を切り出された杉村は、嫌な汗を掻いてしまった。
(つい先日、武藤さんにあんな事を言われたせいで、彼女と結婚する夢を見ちゃったよ……)
秘書課に転属した武藤綾子が営業課に来るたびに、
「杉村さんの顔を見に来ました」
そういうボケをかますので、綾子と結婚式を挙げている夢を見てしまったのだと判断したのだが、絶対に恵子には言えない。
(いくら温厚な恵子でも、激怒するよな)
夢占いで調べたら、現状に不満があると書かれていたので、余計に焦ってしまった。
(芸能人にそっくりな人がいる恵子との交際に不満なんかあるわけないのに!)
杉村は夢占いを信じない事にした。
「どうしたの?」
黙り込んでしまった杉村の顔を恵子が覗き込んだ。杉村はビクッとしてしまった。
「いや、何でもないよ」
そして、疾しい事を考えていたのを誤摩化すために、
「恵子は結婚したいの?」
ストレートな事を尋ねてみた。すると恵子は顔を赤くして、
「そ、そういう訳じゃないけど……。三郎君はどうなのよ?」
逆質問を返した。杉村はまたビクッとした。恵子はそれを見逃さず、
「ねえ、どうしてビクッとするの? そんなに私と結婚するのが嫌なの?」
杉村は仰天して、
「違うよ! そんな事ある訳ないだろ? 恵子との結婚は、すぐにでもしたいくらいだよ」
人間は後ろめたいとよく考えもせずに重大な事を言うものだという典型をしてしまった。
「え?」
だが、恵子もそんな答えが帰って来るとはまさしく夢にも思っていなかったから、目を見開いてしまった。
(間抜けなプロポーズになってしまったかな?)
杉村は気を取り直して恵子を見て、
「結婚しよう、恵子」
改めて言った。恵子は目に涙を溜めて、
「はい」
二人は見つめ合い、口づけを交わした。
一組が進展しました。




