勝呂達弥の憂鬱
お借りしたお題は「烏帽子」「コインロッカー」「忘れもの」です。
勝呂達弥。唐揚げ専門店の店長を拝命し、日々精進を続けている真面目な男である。彼は、前の職場で同僚だった武藤綾子に恋をしていた。そして、ある偶然から再会し、彼女に何度かアタックし、元先輩である大磯理央と波野陽子の助言により、遂に交際する事になった。
しかし、綾子の趣味がそれを阻もうとしている。達弥はそう思っている。綾子は無類のホラー映画好き。達弥は誰にも言えないくらいホラーが苦手なのだ。それでも、綾子との交際を続けたい達弥は自分を変えるしかないと思った。休日に彼はレンタルショップに赴き、ホラー映画のDVDを借りた。タイトルは「髑髏烏帽子 丑三つ時」という和風ホラーである。
(タイトルを見ただけで震えそうだ)
自分が情けなくなる達弥であるが、気を取り直してアパートに帰った。
(暗くならないうちに観てしまおう)
夜、たった一人で観るなんて絶対できないと思い、コンビニで買ってきた昼食用の幕の内弁当を食べながら観る事にした。誰か友人を呼んで一緒に観ようかとも思ったが、自分だけ気絶してしまったら恥ずかしいと思い、やめた。
「ひっ!」
中から取り出したディスクに印刷された絶叫するヒロインの顔にビビる達弥である。何とかそれをプレイヤーにセットし、再生する。いきなり大音量で不気味な音楽がかかり、また小さく悲鳴を上げ、近所迷惑にならない程度の音量にした。
(コインロッカーに忘れ物をしたOLが殺人鬼に追い回される話らしいけど、そんなに怖くないよね)
自分に必死に言い聞かせる。
最初は会社の風景、そして、OL達の楽しそうな会話シーンが続く。しばらくして、いきなり夜になる。それだけで達弥はビクッとしてしまった。場面が切り替わる時に挿入される効果音が背筋が凍りつきそうなくらいまさに効果的なのだ。ヒロインが夜道を歩いていて、不意にコインロッカーに私服を忘れた事を思い出す。そして、彼女は駅へと戻っていく。
(俺なら絶対に翌日の昼間に行く)
ヒロインの行動を理解できない達弥である。そこまで物語にのめり込んでいるのだ。
「ひ!」
達弥の想像通り、ヒロインは誰もいないコインロッカーの前で髑髏の面を着け、烏帽子を被った黒いマントの怪人に遭遇する。怪人は右手に生首を持っていた。ヒロインは絶叫し、その場から逃走する。怪人は左手に持っていた刃渡り五十センチほどの鎌を振り上げ、無言で追いかけてくる。達弥は呼吸を忘れるくらい見入っていたが、ヒロインが一瞬の差で狭い路地に逃げ込み、怪人の追跡を振り切ったところでとうとう力尽き、気を失ってしまった。
達弥は綾子とのデートの時、それとなく「髑髏烏帽子 丑三つ時」の事を話題にし、
「観た事ある?」
すると綾子は一瞬キョトンとした顔をしたが、
「ああ。その映画、全然怖くなかったので、つまらなかったの。もし、観るつもりだったら、やめた方がいいかも」
あっさりそう言われてしまった。
「あ、そう、そうなんだ。面白くないんだ。そうかそうか」
嫌な汗を大量に掻きながら顔を引きつらせて無理に頷く達弥は、
(あれが怖くないなんて、武藤は一体……)
綾子の事が怖くなりかけてしまった。
達弥の受難は続きます。




