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知って欲しい

お借りしたお題は「メモ」「残業」「アウトレット」です。

 杉村三郎。某小説の主人公と同姓同名であるが、ごく平凡な男である。彼の勤務先は中堅の建設会社。そして、恋人は百貨店の花形である受付嬢だ。公私共に順風満帆、と言いたいところであるが、現在、杉村は苦戦中だった。取引先の部長に振り回されているのだ。何度も約束を土壇場でキャンセルされ、伝えたはずの事を聞いていないと惚けられた。いい加減、杉村も頭に来ていたが、仮にも相手は元請け企業の部長。間違っても、切れる訳にはいかない。

つらいだろうけど、こらえるしかないよ」

 営業成績がトップの藤崎に励まされた。

「はい。頑張ります」

 杉村は悔しさをバネにして、今日も残業をしている。当然の事ながら、手当のつかない自主的な残業だ。虚しい気持ちになりそうなのを携帯の待ち受けにしている恋人の吾妻恵子の笑顔で乗り切ろうとした。

「あれ?」

 ふと気づくと、机の端にメモ用紙が置かれていた。自分で置いた覚えはないし、誰かが置いて行った記憶もない。

(何だろう?)

 少し気味悪く思いながら、杉村はそのメモ用紙を手に取った。それは印刷されたもので、

『エクスプローラーOKAYAの作者は身近にいる』

 妙なメモだった。「エクスプローラーOKAYA」とは、杉村と先輩社員の須坂が嵌っているあるサイトに連載されている冒険活劇SF小説だ。作者である「HOTUM」は、年齢、性別も謎に包まれており、「趣味で書いている」という事がわかっているだけで、プロなのかアマチュアなのかも不明なのだ。

(誰がこんなものを?)

 杉村は不審に思った。その小説を読んでいるのは、知る限りでは自分と須坂しかいない。藤崎も読んでいないのだ。

(OKAYAの中に散りばめられているギャグや引用は、ある程度の年齢でなければ知りえないものだ。一体誰だろう?)

 藤崎が実は作者で、自分や須坂を騙しているのかとも思ったが、彼にそんな事をするメリットはない。藤崎の妻になった律子ならやりかねないが、律子にあれだけの小説が書けるとは思えない。

(それに律子先輩は退職してここに来る事はないし……)

 謎は深まるばかりだったが、

「いけねっ!」

 杉村は我に返り、仕事を再開した。


 翌日、杉村は早速須坂に昨夜の出来事を話した。すると須坂は、

「俺の机にも同じものがあったよ」

 杉村は目を見開いた。須坂も杉村の話に興味を持ったようだ。

「少なくとも、この会社に関係者がいるのは確かだな。一体誰だろう?」

 須坂が腕組みをして呟く。杉村も顎に右手を当てて、

「年齢はある程度上ですよね。だとすると、怪しいのは課長や部長……」

 頭の中に浮かんだのは、営業課長の米山米雄。いかにもネット小説を書いていそうな雰囲気はある。そして、梶部も営業課のフロアに頻繁に出入りしているから、容疑は濃厚だと思った。

「おはようございます」

 するとそこへ、秘書課の武藤綾子が現れた。彼女は何故かあるSF映画の宇宙船の模型を持っていた。

「おはよう、武藤さん。それ、どうしたの?」

 須坂が尋ねると、綾子は、

「アウトレットモールで購入しました。五十円でした」

 突拍子もない事を返して来た。須坂と杉村は唖然とした。

「本当は彼氏にもらったんじゃないの?」

 杉村はいつもの仕返しと思い、ニヤリとして言った。すると綾子は顔を真っ赤にして、

「アウトレットモールには一人で行きました。達弥君は行ってません」

 妙に動揺して、スタスタとフロアを出て行ってしまった。

(彼の事、達弥君て呼んでるんだ)

 須坂と杉村は大きく頷いた。二人共、まさか綾子が「エクスプローラーOKAYA」の作者だとは夢にも思っていない。

謎はそのままです。

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