新しい恋
お借りしたお題は「ナース」「コース」「エース」です。
明石三太。三毛猫ハルナの光速便の配達を担当している。彼は担当エリアのマンションに住んでいる武藤綾子に一目惚れし、何度もアタックをしようとしたが、そのたびに邪魔が入っていた。邪魔が入ったと思ったのは三太の個人的な見解で、第三者が見れば、只の気後れだと言われるだろう。
そんな三太の前にナクルトレディの荒川真央が現れた。ショートカットで元気はつらつの真央は、綾子とは全く違った魅力を持つ女性であった。あれ程綾子に恋い焦がれていた三太であったが、今はその心の大半を占めているのは真央であった。いつしか三太は、真央が来る日を心待ちにしていた。
(綾子さん、ごめん。僕は真央さんと付き合う事にします)
綾子に告白した訳ではなく、真央にも告白した訳でもないのに、三太は心の中で綾子に謝罪した。一歩間違えると危ない人である。
そして、真央がナクルトを持って来る日になった。三太は夜明け前に目が覚めてしまい、今までした事がない朝風呂に入り、髪をセットし、コロンをつけて服装もスウェットではなく、スーツを着て真央が来るのを待った。
「おは……」
真央が挨拶をし終えるより早く、三太はドアを開いた。真央はびっくりして目を見開き、三太を見つめている。
「お待ちしていました。どうぞ」
三太は微笑んで真央を玄関に通した。真央はキョトンとした顔で中に入り、ドアを後ろ手に閉じた。
「えっと、一週間分のナクルトです。ヨーグルトは如何ですか?」
真央は何とか営業スマイルを取り戻し、別の商品であるアロエ入りのヨーグルトを奨めた。
「はい、いただきます!」
三太は真央が奨めるものは何でも買うつもりでいた。真央と話しているうちに、三太は彼女のイントネーションが自分の故郷と同じであるのに気づいた。
「もしかして、荒川さんはG県の人ですか?」
三太の問いかけに真央はギクッとして彼を見た。
「え? どうしてわかるんですか?」
三太は苦笑いして、
「僕もそうですから。さっき、イチゴって言う時、イにアクセントが来たでしょ? それ、G県人特有の言い方だから」
「そうなんですか」
真央は照れ臭そうに笑って、
「アクセントは店の先輩に言われて直したつもりだったんですけど」
「じゃあ、やっぱりG県の人?」
「はい。ナースになるために勉強しながら、働いているんです」
真央の言葉に三太は自分がG県を出る時の事を思い出し、ジンとしてしまった。
「そうなんですか。G県のどちらなんですか?」
三太はヨーグルトを受け取りながら尋ねた。真央は端末に販売商品と個数を打ち込みながら、
「S仁田町です。I森M幸さんと同じです」
「え? そうなんですか? 僕もS仁田です」
それには真央も驚いたようだった。
「じゃあ、高校はS仁田東高校ですか?」
「通学時間が長くなるのが嫌だったから」
三太は頭を掻きながら答えた。真央は微笑んで、
「私もです。部活は何をされていたんですか?」
「恥ずかしながら、帰宅部でした」
三太は家が貧しかったからとは言えなかった。真央はしかし、その事について深く追求するつもりはないらしく、
「私はソフトボール部でした。二年の時からエースで四番でした。内角高めのコースにバシバシ投げる強気のピッチングをしていました」
「すごいですね」
三太は同郷とわかったからか、更に真央に強く惹かれた。真央は苦笑いして、
「お陰で腿が凄く太くなって、未だにこんなですよ」
そう言って、制服のキュロットスカートを少したくし上げたので、三太はドキッとしてしまった。
「全然太くないですよ」
三太は高鳴る鼓動を感じつつ、何とかそう言った。真央は嬉しそうに三太を見て、
「ありがとうございます。これからもご贔屓にしてください」
「こちらこそ、ありがとうございました」
こんな僕と会話をしてくれて。心からそう思う三太であった。
三太はどこまで頑張れるのでしょうか?




