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四角関係?

お借りしたお題は「バス」「玉ねぎ」「背広」です。

 杉村三郎。自分の名前がある高名な作家の作品の主人公と同じだと知り、ちょっと恥ずかしくなっている。取引先で何度かそれに言及され、

「君は小泉孝太郎というより、何だっけな……。朝ドラに出ていた若い俳優だ」

 誰の事かわからない状態で終了した事が何度かある。杉村も気になって調べてみたが、朝ドラには若い俳優がたくさん出ており、皆目見当がつかなかった。

(自分が芸能人の誰に似ているかなんて、考えた事もないよ)

 そう思って詮索するのを諦めた。それを思うと、付き合っている吾妻恵子は芸能人にいそうな顔をしている。杉村は芸能界にはあまり詳しくないが、恵子は確実に女優並みの顔をしていると思っている。

(何かで観た事があるんだけどなあ)

 必死に思い出そうとするが、全く出て来ない。

(エクスプローラーOKAYAに出て来るヒロインは恵子そのものって感じだけどな)

 それは杉村と先輩社員の須坂が嵌っているウェブ小説だ。実はその小説を元同僚の武藤綾子が書いているのを二人は未だに知らない。そして、綾子が恵子をモデルにしてヒロインを書いているのも勿論知らない。似ていて当然なのだ。


 その日、杉村は取引先から戻るのに久しぶりに路線バスに乗った。

(今、路線バスの旅が流行はやっているって聞いたけど本当かな?)

 杉村はそんな事を思いながら、一番後ろの席に座った。

(子供の頃は一番後ろに座ると車酔いするから避けていたよな)

 昔を思い出し、窓の外を眺めていると、次のバス停で見た事がある女性が大きなトートバッグを肩に提げて立っているのに気づいた。

(武藤さん?)

 杉村は仰天してしまった。

(どうして秘書課の彼女がこんなところに?)

 不思議に思っていると、綾子がトートバッグを重そうにしながら乗り込んで来た。

「武藤さん、奇遇だね? どうしたの、今日は?」

 杉村は綾子に手を貸して尋ねた。

「杉村さんに会いに行く途中だったんです」

 また得意のボケをかます綾子である。杉村は苦笑いして、

「いやいや、この路線バスに乗っても、僕のアパートには行かないし」

「知ってますよ」

 綾子は事も無げに応じると、杉村の隣にドスンとトートバッグを置いて座った。

(やっぱりからかわれてるんだよな?)

 顔が引きつりそうな杉村である。トートバッグの中を見ると、玉ねぎがたくさん入っていた。

「今日は有給休暇を取って、親戚の家に野菜の収穫を手伝いに行ったんです」

 綾子はバッグの中から玉ねぎを一個取り出して杉村に渡した。杉村は呆気に取られながらそれを受け取った。

「では、ここでお別れです」

 綾子は重そうにバッグを持ち上げ、バスを降りる。見かねた杉村は一緒に降り、バッグを持ってあげる事にした。

「ありがとうございます、杉村さん」

 まだ何も言わないうちに綾子にバッグを渡され、杉村は、

(引っかかったか?)

 つい、嫌な事を想像した。

「……」

 想像以上に重いので、杉村は目を見開いた。

(武藤さんて、華奢に見えて実は力持ちなのか?)

 代わりにアタッシュケースを持って隣を歩く綾子をマジマジと見てしまった。

「ここです」

 綾子が不意に言った。ハッとして見上げると、そこそこ高級な賃貸マンションの前だった。

「ここが、武藤さんのマンションなの?」

「はい。お茶でも飲んで行ってください」

 綾子があっさりとそう言ったので、

「え? でも、武藤さん、一人暮らしなんだよね?」

 杉村は嫌な汗が出て来た。綾子はキョトンとした顔で、

「はい。それが何か?」

 杉村は恵子から綾子が以前同期だった勝呂すぐろ達弥たつやに告白されて夜眠れなくなっていると聞いていたので、

(どういうつもりだろう?)

 首を傾げてしまった。

「あら、三郎君? どうして綾子さんと一緒なの?」

 そこへ何故か恵子が現れた。杉村の嫌な汗が尋常ではない量噴き出し始めた。

(そう言えば、今日は恵子も休みだっけ……)

 この状況をどう説明しようかと焦る杉村であった。


(綾子さん……)

 そんな三人を電信柱の陰から眺める一人の背広姿の男。宅配業者勤務の明石あかし三太さんたである。三太の視界にはちょうど恵子が見えていなかったので、綾子と杉村のツーショットになっていた。

(今日こそ告白しようと思ったのに!)

 泣きながら走り去る三太の事を誰も気づいていなかった。

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