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デートは地下室で

お借りしたお題は「地下室」「ピザ」「桜」です。

 杉村三郎。建設会社勤務の営業マン。最寄り駅に隣接している百貨店の受付嬢である吾妻恵子と真剣交際をしている。同棲はしていないが、恵子が時々杉村のアパートに泊まりに来る。恵子は早くに母をうしない、父親と二人きりで過ごして来た。だから、恵子が部屋に泊まると言い出した時、驚いた。

「お父さんに怒られるだろ?」

 思わずそう言ってしまった。泊まって欲しくなかった訳ではない。ガツガツしているように思われたくなかったのだ。ところが恵子は、

「父には何も言われないよ。私も大人なんだから、自分の事は自分で決めろって言われてるの」

 何ともいい親子関係だと杉村は感心してしまった。そこまで娘の事を信用している父親なのだと思った。そして、そんな恵子の事を大切にしないといけないとも思った。


 二人の休日が久しぶりに一致したので、朝からデートをした。すでに桜は見頃を過ぎ、すっかり葉桜になってしまっていたが、それでも恵子と遊歩道を歩くだけで楽しかった。

「もう、何よ?」

 つい顔をしげしげと見てしまうので、恵子にたしなめられた。杉村は頭を掻いて、

「桜は散ったけど、もっと綺麗な花がここに咲いているなあと思ってさ」

「恥ずかしい事言わないでよ」

 恵子は顔を赤らめて、先に歩いていってしまう。杉村はそれでも彼女が嬉しそうなのはわかったので、ニンマリした。

「この先にイタリアンレストランがあるんだ。本格的なかまでピザを焼いてくれるんだよ」

 すると恵子はピタッと立ち止まり、振り返った。

「そうなの?」

 恵子が無類のピザ好きなのを知っているので、インターネットで検索して見つけたのだという。

「そこのマルゲリータが絶品なんだってさ」

 杉村は更に続けた。恵子はウットリした顔になり、

「私、マルゲリータが一番好きなの! 是非行きたいわ!」

 杉村の手を取って目をキラキラさせた。杉村は恵子の手を包み込むように握り、

「最高の調味料を手に入れるために、もう少し歩こうか」

「え? 最高の調味料?」

 恵子がキョトンとすると、杉村はフッと笑って、

「空腹だよ」

「ああ……」

 ちょっとだけ恵子が引いているのがわかり、

(須坂先輩、やっぱりこの台詞、臭過ぎますよ)

 会社の三年先輩の須坂津紀雄のアドバイスにダメ出しをした。


 しばらく辺りを散歩し、携帯のカメラで互いを撮ったりして楽しんだ二人は、細い路地を歩いた。

「こんなところにあるの?」

 恵子はドンドン狭くなっていく路地を見てキョロキョロしている。杉村はニヤリとして、

「それがあるんだな。まさに隠れた名店なんだよ」

 そう言って、路地の突き当たりの古びたビルを右手で示した。

「え? ここ?」

 恵子はそのたたずまいがあまりにも貧相に見えたので、ちょっと心配になった。

「ああ、心配しないで。レストランは地下だから」

 杉村はビルの脇にある手すりが錆び切った階段を指差した。

「そうなんだ……」

 恵子はそれでも不安でいっぱいだった。

「さ、行こうか」

 杉村はニコニコして恵子の手を取り、階段を降り始める。カンカンと響く足音が、少しばかりホラーな演出に聞こえてしまう。

「わあ……」

 だが、恵子の不安は店の中に入ると同時に解消された。お昼時だとは言え、その混雑の仕方はよく知っているレストランより遥かに凄かったのだ。厨房の方を見ると、ガラス張りになっており、窯も見えているし、ピザ生地を料理人がこねているのも見える。これは本格的だと得心がいった。

「予約していた杉村です」

 しかも、待たされるかと思っていたのだが、杉村が予約をしていたお陰で、すぐに熱々のマルゲリータが出て来た。

「美味しそう!」

 思わず恵子が叫ぶと、

「美味しそうじゃなくて、美味しいんだよ」

 杉村が何故かドヤ顔で言った。二人は争うようにピザを食べ、すぐに追加を注文した。

「こんなに一気に食べたの、初めてよ」

 恵子が言うと、

「では、お先に」

 誰かが言って席を立ったので、ハッとしてみると、杉村の会社の秘書課勤務の武藤綾子だった。

「む、武藤さん、いつの間に?」

 杉村は仰天してしまった。すると綾子は、

「先に来ていましたよ。杉村さんも、須坂さんに教えてもらったんですか?」

 嫌な汗が出そうな事を言われてしまった。恵子がびっくりして杉村を見た。

「あ、あはは……」

 武藤さん、勘弁してよ……。杉村は項垂れてしまった。

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