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綾子、恋に落ちる?

お借りしたお題は「幽霊」「就職」「唐揚げ」です。

 武藤綾子は念願だった秘書課に異動し、今では立派に常務の平井卓三の秘書を務めている。


「我慢せずに嫌な事があったら、いつでも私に相談してくれ」

 

 平井の同期である梶部次郎が綾子の身を心配して言った。


 平井が営業課長だった時、部下の真弓と不倫をしていたからだ。


「はい」


 綾子はこれでもかというくらいのウルウルした目で応じたので、また梶部の妄想が暴走する。


(やはり武藤君は私の事を……)


 先日観た動画も影響したのか、梶部はいけない事を考え、ハッと我に返って反省した。


 里帰りから戻った妻の弓子にダウンロードした動画を見つけられ、こっ酷く説教されたのだ。


(私のような中年オヤジが武藤君のような美人に好かれるはずがない)


 梶部は項垂れて部長室に戻った。


 


 そして休日。


 綾子は無類のホラー映画好きである。スプラッターモノより、幽霊モノが好きだ。


 だが、同僚の波野陽子や大磯理央は極度の怖がりなので、一緒に映画を観に行こうと誘っても逃げてしまう。


 今回も恋愛映画を観ましょうと嘘をついてシネコンに連れて行ったのだが、直前に気づかれ、逃げられてしまった。


 仕方なく綾子は一人で、男ですら怖くて怯えるほどの映画を淡々と観た。


(あまり怖くなかったな)


 腰が抜けて歩けなくなっている女性を尻目に綾子はシネコンを出た。


(ポップコーンを食べるのを忘れた)


 お腹がいたので、綾子はどこかで食事にしようと思った。


「あれ?」


 ふとシネコンの向かいにある唐揚げ専門店を見ると、見覚えのある男性がゴミ箱を掃除していた。


(誰だっけ?)


 他人にあまり関心を寄せない綾子だったが、その男性が気になり、店に近づいた。


「あ、武藤だよね?」


 男性が綾子に気づいて白い歯を見せて微笑んだ。


「え?」


 綾子がキョトンとしたので、男性は苦笑いして、


「短い間だったから、忘れられちゃったかな? 入社式で隣だった勝呂すぐろ達弥たつやだよ」


 綾子は記憶の糸を解きほぐした。


「勝呂君……」


 何故か顔が熱くなった。綾子にはその理由がわからなかった。


「懐かしいなあ。武藤、また奇麗になったね」


 達弥は綾子を眩しそうに見て言った。


「え?」


 綾子の顔が更に火照った。その時、


「勝呂君、何してるの?」


 店の中から長身の女性がヌッと顔を出した。


 ストレートの長い髪を大雑把にポニーテールにしている。


 制服であろうエプロンには「店長 足立松子」のネームプレートを付けていた。


「あ、すみません、店長。お客様をご案内していました」


 綾子には達弥が緊張しているのがわかった。


(この店長さん、怖いみたいね)


 店長はにこやかな顔で綾子を見て、


「いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくり」


 そう言うと中に戻って行った。


「ごめん、武藤。悪いけど、お客のフリしてくれないか。サボっていたと思われると、怒られるんだ」


 達弥は手を合わせて綾子に懇願した。


「ここに就職したの?」


 綾子は店に入りながら尋ねた。達弥は頭を掻いて、


「ああ。会社を辞めたのは、ここの唐揚げに衝撃を受けたからなんだ。俺もいつか必ず店を持ちたいと思ってる」


「そうなんだ」


 綾子は熱く語る達弥に見とれてしまった。そして、唐揚げを五人分買い込んだ。


「ありがとう、武藤」


 達弥は外まで出て来た。


「よかったら、連絡先を教えてくれないか?」


 そう言われて、綾子はドキッとした。


「うん……」


 綾子は達弥に渡されたメモ用紙に携帯の番号を書いた。


「これ、俺の携帯の番号」


 達弥は番号を書いた名刺を渡してくれた。


「今度どこかで飯でも食おうよ」


「うん」


 達弥はありがとうございましたとお辞儀をして、綾子を見送ってくれた。


 綾子は鼓動が速くなるのを感じ、自分の感情がわからなくなっていた。

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