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梶部次郎の冒険

お借りしたお題は「ダウンロード」です。

 梶部かじぶ次郎じろう、四十五歳。建設会社営業部の次長である。もうすぐ再婚相手の弓子が出産する。そのせいもあり、梶部は欲求不満だった。


(ユーミンは神経質になっているから、とてもそんなお願いはできないし……)


 梶部はほぼ毎日、悶々としていた。


(俺って、そんなに性欲が強かったのか……)


 改めて自己嫌悪に陥る梶部である。


 結婚に至る切っ掛けとなった秘薬は弓子の妊娠を知って以来服用していない。


 だから、この押さえ切れない欲望は自分本来のものだと悟った。


 煩悩を薄めようと思った梶部は、スポーツ倶楽部に入会した。


 そこで汗を掻けば、発散できると思ったのだ。


 ところが現実はそうではなかった。


 そのジムには若い女性がたくさん通っていた。


 しかも、汗を掻いてもいいように薄着の人が多い。


(目に毒だ……)


 梶部は煩悩が倍返しになりそうな気がして、一日で行くのをやめた。


(かと言って、この年になって風俗というのも……)


 同期の平井卓三は四十過ぎても通っていたらしいが、そもそもそういうところに対する知識がない梶部はどこに行けばいいのかもわからなかった。


(風俗はまずい。ユーミンにバレたりしたら、間違いなく離婚される)


 バツ2になりたくない梶部はその選択肢を捨てた。


「どうした、梶部君」


 廊下で溜息を吐いた時、ちょうど通りかかった部長に聞かれてしまった。


「いえ、何でもありません」


 梶部は苦笑いをして誤摩化し、用があるフリをしてその場を駆け去った。


(煙草でも吸うか)


 しばらくしていた禁煙をやめてみる事にした。


「え?」


 ところが、喫煙室は若い女子社員でいっぱいだった。


(何て事だ……)


 梶部は項垂れて自分の部屋に戻った。


(俺はどうしてこんなに煩悩が強いんだろうか……)


 前の妻と結婚していた時はこんな事はなかった。


(やっぱり、ユーミンが魅力的過ぎるから、俺の『男』が強くなってしまったんだ)


 妙な理屈を付けて自分を納得させようとした。


 


 悶々としたまま、梶部は帰宅した。


「お帰りなさい」


 弓子が出迎えてくれる。只今のキスは結婚当初から毎日続けているが、


(ここでおしまいなのがいけないのか?)


 そんな事まで思ってしまった。


 結局、梶部は夕食の間もその事ばかり考えてしまい、何度も弓子にムッとされた。


 弓子が入浴中、梶部はパソコンを起動した。すると前日に開いていた通販サイトが表示された。


「お!」


 そこで梶部は、エッチな動画のダウンロードができるのを見つけた。


(これならユーミンにバレないぞ)


 梶部はニヤニヤして、早速ある動画をダウンロードした。


 観賞しようとした時、弓子が風呂から出た音がしたので、慌ててパソコンを切り、文庫本を書棚から取り出して読んでいるフリをした。


「お風呂、入っちゃえば」


 タオルで髪を乾かしながら、バスローブを羽織った弓子が部屋に入って来た。


「あ、ああ」


 梶部はそそくさと浴室に行った。


(今夜は無理だから、明日観よう)


 ついスキップを踏み、廊下を進んだ。


 


 そして、翌日。梶部は動画を観るのが楽しみで、その日一日ご機嫌だった。


「何かいい事でもあったのですか?」


 秘書課に転属になった武藤綾子に廊下で会った時、尋ねられた。梶部はギクッとして、


「いや、別に何もないよ」


 そう言って誤摩化した。だが、綾子は訝しそうに歩き去る梶部の背中を見ていた。


 


 あまりにも楽しみだったので、駅から家までスキップ混じりに歩いて帰った。


 だが、梶部のテンションは玄関を入った瞬間に急降下した。


「ねえ、何これ?」


 弓子が目を吊り上げて突きつけたのは、昨夜覗いていた通販サイトのエッチな動画のダウンロード画面だった。


 梶部は全身から嫌な汗を滝のように流した。


(しまったあ!)


 何と言い訳しようと通じないと思った梶部は、今年一番の土下座をしたのだった。

ということでした。

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