二口女とヒトデナシ
嗚呼、何故か分からないが、彼女に喰べられる私が見える。彼女の口からはみ出る片腕と、片足が見えている。
嗚呼、素晴らしい。素晴らしいことだ。こんな素晴らしいことがあるだろうか。こんな素晴らしい日が来ようなど、思いもしなかった。
彼女に喰べられひとつとなる。こんな素晴らしいことはない。
私の愛おしい彼女は二口女と言う妖怪だった。後頭部にもうひとつの口がある、女の妖怪。
二口女の唯一の愛情表現は、愛した男を喰べてしまうこと。二口女の本能。
愛してしまえば、喰べずにはいられない。
嗚呼、なんと哀しく狂おしいほど愛おしい妖怪だろう。
だから彼女は自分の正体を私に明かし、別れてくれと懇願した。喰べてしまうのは逃れられぬ哀しい性。貴方を愛しているからこそ、本能に負ける前に逃げてくれと。
私は彼女の思いを裏切り、言った。
私を喰べてくれと。私は喰べられて君の中で生きていたい。君の中で、永遠に一緒にいようと。
そして、その夜、私は彼女を抱いた。幾度も抱いた身体を狂おしいほど激しく。狂おしいこの思いをぶつけるように。
涙を流しながら彼女は、愛してると囁いた。
私は口付けで応えた。
嗚呼、彼女に取り込まれていくのを感じる。彼女の命の一部になっていくのを感じる。
嗚呼、私は彼女と真に一心同体となるのだ。
永遠に、誰にも邪魔されることはない。
彼女の優しい声が聴こえる。
貴方を感じるわ。永遠に私のもの。
嗚呼、とても素晴らしい気分だよ。
貴方に言ってないことがあるの。私ね、子供が出来たの。貴方の子供。それでね、お願いがあるの。私はね、貴方を産みたいの。
どういうことだい?
貴方の魂を子供の身体に移して、貴方を産みたいの。産まれれば貴方は二口男。同じ妖怪なら永遠に一緒にいられるわ。素敵でしょう?
ああ、とても素晴らしいよ。
嗚呼、本当になんと素晴らしい日なのだろう!
二口女とヒトデナシ-了-