1-3 妖精の怒り
久しぶりに投稿です。
年末年始を挟んだせいで書くのにすごく時間がかかってしまいました。
それではどうぞ。
『君の力は、大きすぎる。そして危険だ』
先生は、妾の力を見てそう言っておった。
言われて初めて自分でも強大な力だと自覚した。
大きすぎる力には、必ずと言って良いほど災悪が付きまとう。当然のこと言われるまでもなかったが、素直に頷き約束した。
『君の守りたいものが守れなくなってしまう』
先生は、哀しい目で教え聞かせてくれた。
力が全てだと思い込んでいた妾は、子供じゃったな。
傷付ける力では、誰も守ってはやれぬのじゃと深く心から理解した。
『わかってくれたね?さすが私の自慢の優しいリーゼだ』
全てを受け入れ、誓った妾に先生は、優しい笑みを向けて頭を撫でてくれた。
子供扱いするでないと言いたかった…しかし、妾の名を呼びながら笑いかけてくれるのが堪らなく嬉しいと感じる。
『リーゼ』
妾のことをそう呼び撫でてくれた殿方はもうおらぬ。どれだけ泣こうが喚こうが帰ってくることはない。
何故なら、妾が誓いを破ってしまったから。
あの時から一度も使わなかった力、本来なら使いたくない。
誓いを破れば、今度はだれかをうしなう その教訓と先生を犠牲にした悔いからずっと使わなかったのに。
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「集え!騎士共――!」
ミーニャが殴られてから目の前が真っ赤になって、身体中が燃えるように熱くなったと思えば、身体が勝手に動く。
俺の身体なのに、思考がボヤけてほとんどなにも考えられない……ただ、怒りだけが沸沸と俺の中から沸き起こる。
衝動に駆られ再び誓いを違えることに罪悪感を感じつつも俺は止まれない。
先生がいつも俺に言っていた『優しいリーゼ』は、今や幻。
薄れ行く意識の中、最後に俺の目に写りしは、髪を靡かせ朱色の瞳を深紅に変え、殺意にまみれた顔をした女だった。
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話が違う!
「なんなんだよこの鎧共は!?」
初めは、男だと思っていたが実は上玉の女。
この時代では、性別を偽りいきる女も少なくない。俺たちみたいな、家業の人間にとっては女であるだけで商品価値がある。
今回はスポンサーの貴族様が慰み者にすると言うので渋々譲った。
正直、売らないで鎖にでも繋いで自分だけの女にしたいほど可憐な女、せめて飽きたら頂戴したかった。
女は頭を打ったせいか無抵抗だったのに関わらず、突如現れた獣人の小娘が仲間に殴られた瞬簡に様子が激変。
血走った目が俺らを捉えた瞬間、先程まで誰もいなかった筈の俺たちの周りを10人の武骨な鎧騎士に囲まれていた。
「召喚じゃと?庶民風情が魔力を有しているなど…」
スポンサーの旦那もいきなり現れたコイツらにびびりまくっている。
「旦那!どうすんだよ!」
「私を守れ!それが仕事だろう!」
一人が旦那に問いかけるが旦那は、恐怖からか問いかけた男を後ろから蹴り飛ばす。
「うぎゃぁああ」
不意に前に出された男に生気を感じない鎧騎士は、迷うことなくその手に持った精巧な剣を降り下ろし、切り捨てた。
鮮血が宙を舞い、断末魔が全員の耳に響く。
切り捨てられた男は、地面に転がりピクリとも動かない。
俺は生存本能を刺激され、我先に逃げ出した。
俺に続いて他の奴も逃げ出す、スポンサーは腰が抜けたのか地面い尻餅をついて俺たちに戻ってこいと呼び掛ける。
だが、所詮は金での関係、命が危ぶまれれば雇い主をおいて逃げるのは当然だ。
「妾の宝を害しておいて逃げられると思うな!」
女の甲高い声に振り向いてしまったとき、いつの間にか背後で剣を振り上げていた鎧騎士が俺の命をたつために、剣を降り下ろす。
悲鳴すらあげることを許されなかった。
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数十秒しか時が流れていない中で貴族の男の周りは死屍累々。
自分が金で雇い護衛をさせていた荒くれ者たちは、目の前で斬殺され、今まさに自分が殺されかけている。
すでに周りを鎧に囲まれ、鎧騎士たちは一歩また一歩と貴族風の男に迫る。
「ヒィィィ」
男は恐怖で腰が抜け、顔が歪む。
ジリジリと下るがコンと背中が硬い何かに当たる、恐る恐る振り返ると其処には、血染めの剣振り上げている騎士。
「妾の娘を傷つけた罪、その命で支払え愚か者が!!」
前を向くと先ほど連れ去ろうとした小娘が眼前で自分を見下ろす。
その瞳は、紅色に染まり身が竦む様な冷たさを誇っていたが、逆にその顔は怒りに燃えていた。
「や、やめてくれぇぇぇぇ!」
無情にも娘が声を荒げたのに呼応するかのように振り上げられた剣が自分に向かって振り下ろされ…。
「其処までにしてもらおう!!」
振り下ろされる直前に、男の大きな声が響いた。
以上です。
それではまた。