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妖精の落し物  作者: 鉄火巻き
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1-1 妖精の朝

 朝、太陽の光が家の窓から差し込み、夢の世界に居る俺に目覚めの時間だと教えてくれる。


「う、う~」


 一応、目覚めた俺ではあるが、まだ眠い。

 

「そういや、今日、早出だったな」


 本日の用事を思い出し、眠り足りない自分の体に、ムチを打って藁の香りがするベッドから起き上がる。ベッドと言っても藁に白いシーツをかけた簡易寝所だ。時々、チクチクと藁が刺さって寝にくい思いもする。けれども寒くなって来た夜を過ごすには、必需品だ。


「いつまでもボーとしてないで準備しなきゃなんねぇな」


 ノソノソと寝起きでダルイ身体を動かし、古びた木製の扉を開ける。ボロボロで金具が何度も外れてしまい悩みの種の扉だが、我が屋で一番初めに迎え入れてくれ風や雨を家に入れないでくれる存在。


「う~寒み~」

 扉を開け、出迎えてくれるのは、冬に入りかけの冷たい風。

 毛布に包まりながら外に出る。安物の靴で庭に生え切った草を踏みしめる。そのまま、庭から少し離れた井戸まで歩く。


「うひゃ~本気で寒い…、早いとこ家入ろ」

 

 井戸のそこに桶を落し、カラカラと滑車の帯を引き、水をくみ上げる。

 それを備え付けたあった容器に移し替える。だが、寒空の中、水場での作業は、正直堪える。

 物凄く冷たくて手の感覚が無くなりそうになりながらも、容器をもって何とか家に入る。


「さむさむさむ~」

 俺は、とにかく寒さを紛らわせるために暖炉に薪をくべ、掌を向けて暖を取る。

 しばらくして温まった俺は、ポットに先ほど汲んでおいた水を入れ、暖炉の上に置く。

  

「えーと、これとこれと…、あれ?ターバン何処にやったっけ?」


 ポットのお湯が沸くまでに着替えを済まそう、そう決めた。

 俺は、急いで我が屋に一つだけあるチェストから、藍色のシャツと灰色のズボンを引っ張りだす。それを着るが中々大きめの服のため、ダボダボになりつつも着替えを終える。

 しかし、いつも頭に巻いているターバンだけがどうしても見つからない。

 ゴソゴソとチェストの中を捜索するが手がかり一つ見つけられない。


「これだけ探して無いとなると…。アイツだな~」 


 顎に手を当てて、思案していたら。

 ポットが沸騰して独特のピューという音が聞こえた。

「やば!ポットが噴く!」

 

 俺が大急ぎで、台所に駆けつけた頃。

 台所には、俺よりも背がかなり低め、金髪の髪にコバルトブルーの瞳、なにより特徴的なのは,先のとがった長い耳の男の子がいた。男でありながら非常に中性的で整った顔立ちをしている。

 身内の贔屓目を引いたとしても端正な顔立ちで、後6年も経てば女達は放っておかない美青年になること間違いなしだと思う。


「おはよう、お湯噴いてたから火を消しておいたよ」

「お、おう、サンキュー。相変わらず気の利いた弟で俺は助かるよ」


 そう、おわかりだと思うが、この少年は、俺の弟である。

 名前は、リック。今年で10歳になる少年だ。

 見た目だけだと何処かの貴族風に上品な雰囲気のある奴だけど、性格は、結構腹黒く家長で年長者の俺ですら服従させられるほどの何かをもっているガキだ。


「あ、お茶」


 俺が台所についた時、弟によって火は消されており、よく見るとご丁寧にポットのお湯でお茶まで用意されていたのには、驚いた。 

 なんというか、手際が良すぎる気がする。


「紅茶淹れておいた、後少し蒸してから飲むと美味しいと思うよ。後、これ」 

「あ、ターバン!」

「ミーニャが昨日、玩具にしてたみたいだね。」


 リックから手渡されたターバンを受け取る。やはり、ミーニャが持って行っていたかと安心する。

 席に座れば?とリックに言われたので俺は、木製の少しギシギシが限界まで来ている椅子に座る。

 そして、リックがカップに紅茶を注いでくれたので香りを楽しみつつ、カップに口を当てて、飲む。


 うま!

 口の中に広がった紅茶の甘味や苦みが、絶妙なバランスで俺の寝起きの脳や身体を活性化させる。

 

 おもわず幸せ気分で表情が崩れた。今、鏡を見ればさぞかし間抜けな顔をしているだろう。だが、それほどまでに美味しかった。リックの将来は、喫茶店のマスターでもいい気がしてきたよ。

 これ、美味い紅茶なら金を払ってでも飲んでいたい。


 弟の淹れてくれた紅茶を満喫し、仕事までの時間をポケーと過ごしていると。


「マ~~ニャ~~」


 何やら二階の階段から、可愛らしい声が聞こえ、椅子を後ろに傾けて階段を覗く。

 するとズルズルと毛布で全身をくるんだ毛玉にチョコンと小さい脚が生えた塊が、毛布の先を引き摺りながら降りてきた。

 

「ミーニャ、そのまんま降りてきたら階段落ちちゃうよ?」

「マ~~ニャ~…ニュァ!?」

 

 言った傍から、小さな足が毛布をふんずけてしまい、ポーンと階段から床に強制ダイブ。

 だから言わんこっちゃない!俺はすぐに、階段の下にスライディングで駆けつける。

 木の床で若干ケツがアチチな事になっているのもお構いなし、優先すべきは一つ。


「おっ…いて~」

「にゅあ…ごはん~」


 タイミング良く俺の胸に飛び込んできた毛布の塊、俺は何とかキャッチしてみたんだけど、軽いとは言え一人の子供。ドンと鈍い音が部屋中に響く。

 階段の中段からのダイブを受け止めるのは、骨は折れてないけど骨が折れる。

 背中と胸の痛みに苦笑しつつ、毛布をめくっておちょこちょいな『愛娘』の顔を確認する。


「おいおい、階段から落ちたと思ったらいきなりご飯要求かよ」

「みゃ、耳くすぐったい」


 毛布をめくると小さな、『おてて』という言葉がぴったりな手で、目をごしごしと擦っている娘。

 色白で少しつり目だけど、瞳は寝起きのためか潤んでいるも綺麗に澄んでいる。八重歯が目立つ可愛らしい女の子が俺の目の前で欠伸をしていた。

 俺は、思わず抱きしめながら何より目立つ赤い色の髪を撫でながら、通常の耳の位置とは大きく違った位置にある獣耳を撫でる。

 すると娘は、くすぐったかった為、身を捩って俺の腕から抜けだす。


「ふっ、おはようミーニャ」

「ふぁ~~、おはよーう」

 

 未だに目を擦りながらではあるがキチンと挨拶を返したので俺は、頭を撫でながら片手で抱き上げ、椅子に座り膝の上に座らせる。

座らせた瞬間、パンツからはみ出ている赤毛の尻尾が大きく揺れる。

 俺の膝の上に座り、リックが皿載せたパンをもって来たのでそれをモシャモシャと紅葉のような小さな手でつかんで食べていた。


 この子の名は、ミーニャ。3歳3カ月の女の子で俺の一人娘である。

 本当に可愛らしく、嫁にだけは、絶対に出したくないと思うほど俺は愛している。

 なのに、子供の可愛らしさに小動物的な可愛らしさが合わさって俺は、ついつい猫可愛がりしてしまい「しつこい」と怒られた時は心の中で泣いた過去を持つ。

 親の愛は、子供に伝わり難いのだと勉強になった。


  リックとミーニャ、この二人が俺の家族であり、かけがえの無いほど大切な宝だ。

 ミーニャを抱っこしたまま、ボーと頭を撫でて時間を過ごしている時。


「ねぇ、ゆっくりしてるところ悪いんだけど、仕事行かなくて良いの?」


 机の向かい側で同じく朝食を食べていたリックが、紅茶の入ったカップを飲み終え机に置いた瞬間に言われた一言で現実に引き戻された。

「いけね!早く言えよ!」

「いや、なんか幸せそうにしてたからさ」

「そこまで気を利かせないでいい!」 

 

 我が屋に昔からある大きな時計の針が、出社時間ギリギリを示していた。

 リックの野郎絶対ワザとだ。


 大慌てでミーニャを膝から降ろし、椅子にかけてあったターバンを手にとる。

 そのまま、走って家を出ようとすると、リックが後ろから「忘れ物」と言って弁当を投げてきたため、慌ててキャッチ。


 弁当まで拵えてくれていたとは…、我が弟は大変出来た弟であるな。


「行ってきます!後、晩飯も帰りに買って来るから」

 俺がドアを開け、手を振りながらそう言うとリックが手を振り返し、ミーニャが「お魚がいい~」とリクエストしてきた。


 行ってらっしゃいって言ってほしいぞコンチクショウめ。


「魚は一週間ずっとだろ?偶には、別の物も食べなきゃだめだぞ。じゃリック、ミーニャ頼んだ」


 俺は、そう言い残して荷物の入った袋を肩にかけ、家を出る。

 時間がギリギリのため、結構ガチで走る。

 

 一家の大黒柱である俺の稼ぎが無くては、娘や弟が飢え死しんでしう、だから仕事は比較的、真面目。

 遅刻は、少し多いものの家庭状況から工場長にも何度かお情けで見逃して貰っている。

 

 ただ、今日だけは遅刻したくないのだ。先輩の仕事を代わりに引き受けてまで遅刻したくない。

 その想いから全力疾走していた。

 家から大分離れると地面が、補正されたレンガの道になり早朝だが人の数も多くなってきた。

 

「それでね」

「そういえば二番街に新しいお店が出来たの知ってるかしら?」

 

 などと早くから井戸端会議に華を咲かせているご婦人方や仕事に出かける旦那を見送る奥さんなど色々な人々がそれぞれの生活を始める。何故か俺が横を通り過ぎると、男女年寄り子供とわずに俺の方を見て固まっていたのか気になるが、今はそれどころではない。

 街の中を駆け抜けていると俺の雇って貰っている職場が目に入り、ペースを少し落として深呼吸する。

 息切れしたままで、工場に入ったら「また遅刻ギリギリで走ったな」と同僚に笑われてしまう。

 もう今週だけで、3回目なのだ…絶対笑われる。

 だが、本日は非常に呼吸が楽で息切れもほとんどしないで走れた。

 早起きのおかげだろうか?

 

「さて、行くか」

「あら、リゼットちゃん今日は早く仕事にいけそうね」


 深呼吸を終え、一歩踏みすと同時に、俺の右側。

 香ばしく食欲を刺激する香りを漂わせる焼きたてのパンがズラーと並ぶ、この街で一番人気のあるパン屋『妖精のパン屋』の奥さんが俺に声をかけてきた。

 昔からこの店でパンを買うため顔見知りではある。この奥さんは、この人族の国『エルフェン』では非常に珍しい妖精族の女性だ。 

 腰より長く鮮やかな金髪、優しげな瞳、そして妖艶な唇。出る所が出ている妙齢の美女。

 名は、エリーゼさん35歳。このパン屋で未だに看板娘?をして客を引き入れている通称『パン屋の美人妻』として有名な人だ。

 旦那さんは、いたって普通のパン職人で、真面目に働く顔に一目惚れしてエリーゼさんが猛アタックの末に結ばれたらしい。

 近所の男性からは、よく【くたばれパン屋】と言われている。

 

「何、人の顔見てるの?」

「うーん、なんでも無いですよ。まぁ今日は余裕で行けそうです」


 俺が笑いながらそう言うとエリーゼさんは、俺の顔を指さして呟いた。

 俺が首をかしげながら待機していた時に発せられた言葉。 


「今日は、男装しないでいいの?」

「え」


俺は、自分の手が震え出すのを感じ、同時に頬の筋肉が引き攣っていく感覚を覚えた。

震える手を見ると、しっかりとターバンが握られていた。

いつも頭に巻いているターバンが俺の手にあると言うことわだ、つまり髪の毛が隠せておらず。

深くターバンを被ることで隠していた顔も表に出ており…素顔が丸見えだと言うこと。


ふと、パン屋のガラスに写った自分を見た。


「あ」

自分の姿を見て、言葉が漏れた。


ガラスに写っていたのは…。

薄い桃色の髪。長く煌めく細い髪は、俺の腰よりしたまで延びており風に揺られることで、日の光を受けさらに輝いていた。


睫毛は長く、 鋭く切れ長の真紅の瞳、その下にある泣き黒子。紅を塗らずとも赤く形のいい唇。鏡には、ハッキリと『女』の顔がそこにあった。

 自分の顔ながら…、この顔は自分に合っていないと自覚せざるを得ないほど綺麗な顔をしていると思う。

 ナルシストになるつもりは、ない。ただ、なんと言うか本当に俺の性格にミスマッチ感が凄いのだ。


(さ、最悪だ…、早起きの代償がこんなところで…)


今は、驚きからか戸惑いの表情で、口を少し開いている。

よくみると顔だけでなく胸を隠すのも忘れていた。

普段は、サラシで潰してある胸も今回は、大きめの胸が上着を中から押し上げその存在を主張していた。

息がいつもより楽なのは、これが原因だったのだ。

胸の形がしっかりと強調されており、襟元からは、くっきりとした胸の谷間が覗け、とてもじゃないが男には見えない姿だった。


そういえば、説明を一切していないが、先程から話しているのは、俺、リゼット・リート。

普段から男装で職場でも男として働き、話し方から何まで男の俺だが。

実際は、13歳、彼氏いない歴=年齢の弟と娘と暮らしている子持ちの『女』である。


「やっちまった~~~」

俺が大きな声で叫ぶとエリーゼさんが少し驚き、周りの目線が一気にこちらに注がれる。

 余計に目立つ事になり、下手をすると職場の仲間に見られる。


「その格好じゃ、工場行けないでしょ?家で身だしなみ整えなさいな」

「ありがとー」


俺が性別を偽っていることを知ってか、店の奥に入れてくれた妖精様。

全力で感謝しつつ、大慌てで妖精様のご厚意に甘え、部屋で鏡と布を借り、すぐさま胸に巻いていた下着布をはずしサラシとして借りた布で胸を潰す。


頭にもターバンを上手に巻き、女性特有の長い髪を隠す。これがいつものスタンスである。


「お、おせわになりました」

「本当におっちょこちょいね~リゼットちゃんは」


 エリーゼさんの前に出たときは、もう羞恥で顔が真っ赤だった。

 エリーゼさんは、終始ニコニコ笑顔で見送ってくれた…恥ずかしい。 


 キチンと礼をいい、人が少なくなったタイミングで工場に向かった。


 だが、しかし。

 ただでさえ遅刻寸前だった状況で、無駄なタイムロスを犯してしまったのだ。

 その結果は言わずもがな。


「また遅刻かリゼット!!お前は、今日はとことん、こき使ってやるから覚悟しろ馬鹿者!」

「ごめーんなさーい!」


うえ~~~ん、また遅刻しちまったよ~~。


 つづく。

思いつきから小説です。


少しでも楽しんでいただけたら光栄です。


次回の投稿日は未定です。

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