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エピローグ――風が止むとき

 壁に仕込まれたスイッチが押され、カプセル状のものが壁から押し出されて来た。

 私を含む三人の前に現れたカプセルの側面には、『NAGI』の文字が記されている。

 カプセルを満たしていたガスが抜けると、横たわった人間の存在があらわになった。

 眠り続けていたのは、罪を犯した女。

 歴史を変えた、犯罪者。


「終わったの?」

 初老の女が、胸元で手を揉みしだきながら尋ねる。

 私は、小さくうなずいた。

「ナギは、死んだ」

 旧姓光本希未、佐藤雄介、そして私と「彼女」は、チームだった。

 タイムマシンを使った、時代検証。それを自由研究のテーマに選び、実際に検証を行ったのは――五十年以上も前の事。

 時代を「空白の日」に設定しようと言い出したのは、確か佐藤雄介だったと記憶している。

 どうせ、悲惨な現実しか出て来ないだろうけれど、知る権利はあるかと、賛同したのは私だった。

 タイムマシンの汎用化が進んだ理由は、安全装置の絶対的な信頼性による。

 歴史の改ざんが行われないよう、タイムマシンは常に時間旅行者を監視しているし、時間旅行者に少しでも歴史に干渉する動きがあれば即座に強制送還される仕組みだ。

 彼女が『ナギ』だと知っていたら、私たちのチームは「時代検証」を自由研究のテーマには選ばなかった。

 そもそも、彼女は「その時」まで、自分が『ナギ』であることに気づいていなかったのではないだろうかと、私は今でも思っている。

 『ナギ』。

 常にその存在は危ぶまれてはいたが、実在するとは思われていなかった。

 タイムマシンという文明の利器の、仇のような存在。あるいは対になる存在なのかも知れない。

 その能力は、タイムマシンに「歴史の改ざんはない」と誤認させるというものだ。

 「凪」という言葉から、その名がつけられた。

 流れを止める者。

 「空白の日」を目の当たりにした時、彼女はその能力を開花させた。つまり「空白の日」を、無かった事にした。

 事故を装って核実験施設に落ちる筈の某国の輸送機を、出撃不能にさせたのだ。


 罪を犯した女は、眠り続ける事になる。そう。彼女自身が無くしてしまった、「滅び」の夢を見続けながら。

 長い長い裁判の間、彼女はずっと眠り続けていた。やっと、私たちは勝ち取ったのだ。彼女の「尊厳死」の権利を。

 カプセルの蓋が開き、懐かしい顔が私たちの前に現れる。

「麻依」

 呼ぶことすら禁じられていた名前を呼ぶのは、光本希未。

 シミの浮いた手が、震えるように彼女の頬に触れた。

「お帰り、麻依」


 お帰り、麻依。

 さあ、話をしよう。

 君が救ったこの東京という都市で、あれから何が起こったのか。

 残念ながら、君が夢見ていたようなものではなかったよ。素晴らしい世紀など、訪れなかった。

 それに、文化の面では、大幅に遅れを取ったかな。

 あの、大躍進がなかったのだからね。

 そう、第二の首都をどちらに設置するのかと、近畿と九州の二大都市で競った、あれだよ。

 そして、それに負けない東京再生パワー。君はさ、それを無いものにしちゃったんだ。

 でも、良いことだっていっぱいあった筈だよ。夢に破れた人も居るだろうけど、夢をかなえた人だって沢山いた筈だ。

 君がいない五十年、色んな事があった。

 私たちも、すっかりおじいちゃんとおばあちゃんになってしまっているだろう? 目を覚ましても、君には誰が誰だか解らないかも知れないね。


 最後に、君の質問に答えよう。

 君が望んだ世界で、私はずっと後悔していた。

 あの時、君を止める事が出来なかった事。それ以前に、この計画を実行した事。


 それでも、幸せになろうって、そう決めた。

 みんなで、話し合って決めたんだ。

 多くの人の幸せを願った、君が選んだこの世界で。



                        <了>

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


この物語は、天崎剣様主催の「空想科学祭FINAL」参加作品として書き上げました。

毎度のこと、SF祭りにSFを書かない奴ですが……一応、いつも頑張っているんですよ。この作品も「SF」に仕上がっている自信は全然ありません。(苦笑)


今回は実は「SFを書こう」として頑張るのは止めました。(笑)

代わりに、「実に、桂まゆが書きそうな物語」に仕上がっているのではないかなと。

最後のお祭りは、肩の力を抜いて。


さて。

私のつたない物語はこちらで終わりですが、「空想科学祭FINAL」には数多くの面白い作品が投稿されております。

お祭りをぜひ、お楽しみ下さい。


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