「つかれてる」と彼氏に拒まれる金曜の夜
大好き天宮さんと付き合う事になったのは三ヶ月前から。
ここ最近は素っ気なくて、「つかれてる」と拒否される。
ずっと変だと思っていたけど……。
◆◇◆
ピンクの苺の飲み物を買おうと手を伸ばすけど、買えなかった。
最後の1本は、私と同じ境遇の女性が買って行った。
私は、隣にあった紫のブドウの飲み物を手に持っていた。
私こと、日比野まどか、20歳。
工場の事務所で働いている。
郊外の冴えない職場だけど、一人だけいい男がいる。
天宮貴之、25歳。
工場の現場の管理部門で働いている。
見目も麗しく、有名大学出身で、有名一族の一員であると言う。
なぜ、こんな冴えない職場に居るのだろう?
そして、なぜ私と付き合っているのだろう?
謎がつきない男だ。
現場に向かう通路で彼が私に気づく。
私は、笑顔を向ける。
プイッと素っ気なく無視される。
職場では話しかけないルールだ。
それにしても素っ気なさすぎる。
……小さく右手を振ったのがいけなかったのか?
素っ気なくて、付き合ってるのが本当かどうか分からなくなる。
でも、今日は金曜日だから、彼が私の家にくる日だ。
日頃の寂しさを埋めてちゃんと、付き合ってる事を確かめる!
私の部屋で料理を作って待つ。
彼は残業で遅い日も多いけど、金曜日だけはここ三ヶ月、ずっと早い。
でも、今日は——。
時計の針が12時で重なった。
「もう終わりなんだ……」
『絶対に諦めない!』
深夜に扉がノックされる。
私は笑顔で彼を迎え入れる。
抱きつこうとして、
「つかれてる」
冷たく言われる。
笑おうとして、涙が溢れてた。
泣くほど悲しんでいるなら、私は一人ベッドで眠りにつくはず。
私は、涙を流していたけど、今はスースーと寝息が聞こえる。
——今日も失敗だった。
たった一日、完全に宿主と同じ行動を取れたら、この身体は私のものになるのに!
私は断罪されて死んだ悪役令嬢。
この世界に魂だけ転移した時に、このルールを聞く。
今日で五日目だけど、合わなかったわね……。
でも、この子の行動パターンは把握しつつある。
あと数日もすれば——。
「まどかは、寝たか……」
ベッドに近づいてくる。
せっかくこんないい男が彼氏なんだから、この身体を逃しはしない!
天宮貴之がベッドにいったん腰掛けてから、身体をまどかに向けて、両腕をまどかの顔の脇に立てて顔を覗き込む。
恋人に向ける甘い笑顔——その後に、私を見た。
「で、お前は誰だ?」
!?
私が見えてる!?
「まあいい。俺のまどかにとりつく奴は、誰でも消えて貰う」
貴之が何かつぶやくと私の実態のない身体が締め付けられた。
『や……やめ……ろ!』
私は声を搾り出した。
けれど、貴之は止まらない。
私の存在は消滅した——。
◆◇◆
温かいものを唇に感じて目が覚めた。
天宮さんが私にキスしてた。
「な、なん……!?」
!?
「起きないからだ」
起きないからキスって!?
「……つかれてるんでしょう?」
「お前がな」
?
「意味がわかりません」
けれど、天宮さんがキスしてくれたからどうでもいいや。
強く抱きしめられてる、身体がなんだか軽い。
「天宮さん、寂しかったです……」
「俺もだ……」
布団をかぶって寝ていたのに身体が冷えてる。
天宮さんの体温が気持ちいい……。
スースー。
「寝るな、まどか。俺がいるのに、つかれて寝るなんて!」
「まあ、明日は休みか。仕方ない、今夜は、ゆっくり休め」
「明日は、つかれてるなんて言わせないから——」
作者が設定した、作中の行動のズレは5つあります。




