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聖剣をへし折った悪役令嬢は、最強の騎士団長を筋肉で溺愛させる  作者: 月雅


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8/10

第八話:暴かれた本性と真実の愛


終わりましたわ、私の淑女人生。


王都の大通りを埋め尽くす民衆の熱狂を馬車(オープンカー仕様)の上から眺めながら、わたくしは遠い目をしておりました。


凱旋パレード。

本来なら、ドラゴンを撃退した騎士団を称える華やかな行事です。

花びらが舞い、黄色い歓声が飛び交うはずの場面。


しかし、今わたくしの耳に届いているのは、予想の斜め上を行く叫び声ばかりでした。


「見ろ! あれがドラゴンを素手でシメた公爵令嬢だ!」

「マジかよ、腕細いぞ!?」

「いや、あの中に圧縮筋肉が詰まってるんだ!」

「ビバ! 筋肉公爵令嬢!」

「抱いてー! マリアンヌ様ー!」


称賛、ではあるのでしょう。

ですが、「美しき令嬢」への賛辞ではありません。

完全に「格闘技のチャンピオン」を迎えるファンのテンションです。


さらに、わたくしたちの馬車の後ろには、巨大な「証拠」がついてきています。


ズシン、ズシン。


地面を揺らして歩く、体長三十メートルのエンシェント・ドラゴン。

ポチです。

首には極太の鎖(特注のアンカーチェーン)が巻かれ、その端を馬車の後部に括り付けてあります。

彼は時折、沿道の観客に「グルゥ(愛想笑い)」と喉を鳴らし、子供たちを泣かせていました。


「あーあ……」


わたくしは深いため息をつきました。

もう隠せません。

「病弱でか弱き深窓の令嬢」という設定は、ドラゴンのブレスと共に消し飛びました。

今のわたくしについたあだ名は「国最強のゴリラ令嬢」、あるいは「破壊の聖女」。


これでは、もう普通の社交界には戻れません。

お茶会でカップを持てば「握りつぶすのでは」と怯えられ、ダンスに誘えば「骨を折られる」と敬遠されるでしょう。


何より不安なのは、隣に座るレオナルド様のことです。


彼は騎士団長。

国の英雄であり、貴族社会の模範となるべき方。

そんな方の妻が、ドラゴンを手懐ける筋肉ダルマだなんて。

外聞が悪すぎます。


「……マリアンヌ?」


レオナルド様が、心配そうにわたくしの顔を覗き込みました。

彼は怪我も完治し(クッキーのおかげで驚異的な回復力でした)、凛々しい正装に身を包んでいます。

隣にいるのが申し訳なくなるほどの輝きです。


「顔色が悪いが、プロテインが足りていないのか?」


「いえ、栄養は十分ですわ。ただ……」


わたくしは膝の上で拳を握りしめました。

言うなら今しかありません。

結婚式の準備が本格化する前に、彼を解放してあげなければ。


「レオナルド様。わたくしとの婚約、白紙に戻していただいても構いませんのよ」


「……何?」


レオナルド様の表情が凍りつきました。

沿道の歓声がかき消えるほどの、静かな威圧感。


「どういう意味だ。私が君に不満を持っているとでも?」


「不満だらけでしょう? ご覧になって、この民衆の反応を。『ゴリラ』ですわよ? 騎士団長たるあなたの隣に立つには、あまりにも品がなさすぎます」


わたくしは一気にまくし立てました。

言葉にするほど、胸の奥(大胸筋のあたり)がズキズキと痛みます。

筋肉痛ではありません。

これが……心痛というやつでしょうか。


「わたくしは、ただの筋肉好きの女です。ドレスの下はムキムキですし、ドラゴンを殴るような野蛮人です。あなたのような高貴な方には、もっと……守ってあげたくなるような、本当の意味で可愛らしい女性がお似合いですわ」


言い切った瞬間、涙が出そうになりました。

嫌だ。

本当は離れたくない。

この人となら、最高のトレーニングライフが送れると思っていたのに。


レオナルド様は沈黙したまま、じっとわたくしを見つめています。

ああ、やはり。

彼も心のどこかで、わたくしの異常さに引いていたのでしょう。

これで終わりです。


わたくしが目を伏せようとした、その時でした。


「……バカなことを言うな」


レオナルド様が、わたくしの手を強く握りしめました。

痛いくらいの強さで。


「品がない? 野蛮? 誰がそんなことを決めた」


彼は声を荒げました。

その瞳には、怒りと、それ以上に深い熱情が宿っています。


「君は、自分の力で運命を切り開き、国を、そして私を救ってくれた。その強さのどこが恥ずかしいと言うんだ」


「でも、世間の目が……」


「世間などどうでもいい! 私は……!」


レオナルド様は、わたくしの肩を抱き寄せ、耳元で囁きました。

熱い吐息がかかります。


「私は、君のその筋肉に惚れたんだ」


「えっ」


「君の上腕二頭筋の張り、広背筋の広がり、そして何より、それを鍛え上げた君の鋼の意志。その全てが、私にとっては世界で一番美しい」


彼はわたくしの手を取り、その手のひらのマメに口づけました。


「君がゴリラと呼ばれるなら、私はゴリラの夫で構わない。いや、最強のメスゴリラのつがいになれるなら、これ以上の誉れはない!」


「れ、レオナルド様……!」


なんて……なんて重い愛なのでしょう。

ゴリラ呼ばわりを全肯定されるとは思いませんでしたが、その言葉の端々から、嘘偽りのない本心が伝わってきます。

彼は本当に、わたくしの筋肉ごと、わたくし自身を愛してくれているのです。


「それに、守られるだけの女など求めていない。私は君と並び立ちたいんだ。君となら、最強の家庭ジムを築けると確信している」


「最強の家庭……」


素敵な響きです。

夫婦でベンチプレス。

子供ができたら、家族みんなでスクワット。

庭にはドラゴン(ポチ)がいて、いつでもスパーリングができる。


想像しただけで、ドーパミンが溢れ出してきます。


「……ふつつか者ですが、一生ついていきますわ。レオナルド様」

「ああ。離さない。絶対に」


わたくしたちは馬車の上で見つめ合い、抱き合いました。

民衆からは「ヒューヒュー!」という冷やかしと、「いいぞ! 最強カップル!」という祝福の声が上がります。


背後では、ポチが空気を読んで「グルルン(お幸せに)」と鳴きました。


わたくしの不安は、プロテインのようにシェイクされて溶けていきました。

もう迷いません。

この人と共に、筋肉の道を突き進むのみです。


ただ、一つだけ誤算がありました。

わたくしたちの愛が深まったことで、レオナルド様の「結婚式への気合」が変な方向へ暴走し始めたのです。


「マリアンヌ。式場のヴァージンロードだが、負荷をかけるために沼地にするのはどうだろう?」

「ケーキ入刀は、オリハルコン製の斧で行うか?」


……前途多難ですわね。

でも、それもまた筋肉への試練。

望むところですわ!


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