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04.白い月の魔女と彼の運命が合わさった瞬間

04.白い月の魔女と彼の運命が合わさった瞬間


 ────一瞬だけ見えた過去の記憶。

 移動魔法の舵取りをプテに任せていて正解だった。ブランシュの意識が一瞬、落ちてしまった。

 落ちた意識の中でブランシュは昔の記憶を見た。小さな女の子の変化と幼い頃の自分の考えの、思い出の一片のような記憶をブランシュは見たのだ。

 懐かしい気持ちもあれば苦い気持ちもある。

 …………やれやれ、今から戦闘があるというのに。

 ブランシュは瞬きを繰り返して、雑念を振り払うように頭を軽く横に振った。

 視界に映ったのは草原。木々がぽつりぽつりと生えており、草原は手入れがされているようで一定の長さで切り揃えられている。

「プテ、位置を出してくれ」

 ブランシュが言うと、近くにいたプテが明るい声で返事をした。

「はーい!」

 プテは画面を起動して操作する。目的地の近くには来ている筈だ。ブランシュは共に来たセイアとフランの姿を探す。

 二人は草の中で座り込み、同じ方向を見ていた。空はすっかり夜に包まれ、ただの草原では暗く月明かりと夜目が利かなければ行動すら難しい。

「ブランシュ、明かりが見えます」

 セイアに言われ、ブランシュも二人と同じ方向を注視する。深い夜の暗闇、見ている方向にはぼんやりとした光が幾つも確認が出来る。

「……あれが目的の町かな?」

 距離はかなり離れている。かろうじて目視でき、ブランシュは眉を寄せた。

 フランが魔力で遠視用のレンズを即興で作り出し、片目に装着して視ている。

「────そうみたい。ライフラインは通じてるってことかな……。どういう状況なのかは町に入らないと分からないかも」

 フランは落ち着いた声音でブランシュとセイアに伝える。ブラッディロードがどういう支配を町にしているのかは町に入らなければ不明。

 ブランシュの横にぷかぷか浮いているプテは画面で自分達の現在地を確認したらしく、ブランシュへ画面を回した。

「確定したよっ! ブランシュ」

「──ありがとう、プテ。やはり、あそこがブルーシアの言っていた町か……。町の名前はスペースタウン、というのか……」

 同じ大陸にある町だというのに、ブランシュは町の名前を知らなかった。奥地に隠居し過ぎたか……、と自分でも思う。

 つまり、隊長との約束は果たせていない。

 広大な世界を彼に代わって見に行く、などブランシュは出来なかった。ソルローアルに引きこもって、世界を拒絶していたのは────。

「ブランシュ~! ブランシュ~!」

 真っ白いもちもちふわふわのボディがブランシュに体当たりしてきた。プテの身体だとブランシュはすぐに気がついて苦笑する。

「…………ごめん、ごめん。ありがとう、プテ」

 ブランシュはプテの身体を触る。プテの身体の感触はもちもちふわふわして気持ちがいい。

 指が沈むほど触ると、本当に気持ちがよくて癒されるのだが、プテはしつこく触ると怒る。

「やめて──! セクハラ~!」

 頭をぶんぶん振ってプテが嫌がるのでブランシュは笑みを浮かべて、プテから手を放した。プテは口を尖らせて不機嫌そうな表情を浮かべる。

「むむむ────!」

「ごめんって、プテ」

「敵反応ないからいいけど、緊迫感ないぞ──! ブランシュ!」

「ちゃんと確認してるから」

 ぽこぽこと沸騰した蒸気がでそうなほどにぷんすこ怒ってくるプテをブランシュは宥める。

 付近に敵意を持つ気配はないことは確認済みだ。それはそれとしてセイアがしっかり辺りを警戒してくれているのだが。

「…………ブランシュ、この後どうしますか?」

 セイアは近くに立っているブランシュに視線だけ向けて訊いてくる。訊かれたブランシュは明かりが見える方へと顔を向けて数分ほど、考える。

 ブラッディロードに支配されていると思われ、それが事実ならせ戦闘は避けられないだろう。ブルーシアから先遣隊、と言われていたが解決出来るならブランシュ達だけで解決するに越したことはないだろう。

 まあ、先ずは……とブランシュは答えを出した。

「スペースタウンの状況把握を優先にしよう。なるべく、私達の正体を気取られないように……。セイアとフランは二人で行動し、町の状況把握をしてくれ。私はプテと一緒に敵の有無と戦力を確認する」

 ブランシュの指示にセイアとフランは否を問わずに頷く。ブランシュは単独でも動ける能力があり、セイアとフランは二人での行動の方がやりやすいだろう。広がっている草原の中、三人とプテはまだ距離があるスペースタウンへと向かうことにした。

 三人は元々、体力はそれなりにあるのでここからは己の体力でスペースタウンへと行く。魔力を使って位置を飛ばすこともできるがブラッディロードに魔力を察知され、待ち構えられることを考えられると先遣隊としてはやりづらくなる。

 プテはブランシュの肩に掴まり、セイアはフランと共に、三人とプテはそれぞれ行動を開始する。

 一時間ほどはかかるだろうが、二つのチームはスペースタウンへと向かう。


 ●


 ────ソルローアルの自警団の拠点にて。

 金色の髪と赤と金色のオッドアイを持つ女性アイネは頬を膨らませていた。ぷくーっと膨らませた頬と不機嫌そうに寄せられた眉、大きな瞳は少し涙を滲ませている。

 アイネは紙の編みひもで作られた大きめの籠に焼き立てのパンを入れ、ブランシュに届けようと持ってきたのだがブランシュが不在と知ってブルーシアに話を聞きに自警団の拠点まで来た。ブルーシアに事の話を聞いたアイネは下を向いてパンを見つめる。

「……せっかく、パン焼いたのに……、またブランシュ、危険なとこに行って……!」

 自警団の拠点、休憩室のソファーに腰を下ろしたアイネはパンが入っている籠を抱きしめて悲しそうに呟く。魔界の残滓と戦ったあとにまともな休みを入れずに危険な場所へ行ったブランシュが心配で仕方ないのだろう。それはそれとして、休憩室で仕事をしていたブルーシアはアイネに注意する。

「ブランシュにも言われたと思うけど、目の色は変えなさい。アイネ」

「……う、うん……」

「今のソルローアルにはよそ者が多い。貴女の目の色がバレると問題しかないのだから」

 ブルーシアに注意されたアイネは肩を落として頷く。アイネの目の色は特別だ。発覚すると厄介なことになるのはブルーシア以外も思っているのだから、ブルーシアは誰よりも先に言っておかなければいけないがブランシュが先んじて言っているのは予測できた。

 アイネの自由な人生を今後も望むなら本当に目の色は変えてもらわないと。

 ブルーシアに言われたアイネは特別な色の目を片手で覆う。魔力で目の色素を変えてしまうのだ。

 これは古くから伝わる魔法による技法であり、近年では目の色を変えてしまえる道具もあるが魔力ある者なら魔力で変えてしまった方がリスクは低い。

 覆っていた片手を下げて、アイネは両目で瞬きを繰り返す。ブルーシアに顔を向けた。

「変わった?」

 アイネはブルーシアに訊く。ブルーシアは微笑みをアイネに向けて優しく答える。

「変わってるわ。綺麗な金色ね」

「ほんと? ……えへへ、ブランシュと似ている?」

 頬をちょっと赤く染めて可憐なアイネは少し恥ずかしそうにブルーシアに訊いた。まるで密かな初恋に夢を見ている少女のようなアイネの表情を見て、ブルーシアの顔は強張る。

 …………ちょっと、私のことも考えてくれないかしら、ブランシュ…………。

 アイネの表情が恋心を見せている妹のノエルと重なってブルーシアは何とも複雑である。別にアイネとブランシュがくっついてもブルーシアは応援できるのだが、ブランシュはあの通りに過去を引きずっているし、アイネはブランシュへの想いが報われないのは覚悟の上。

 ブルーシアは二人の友人として、二人の気持ちを理解し尊重したい。ので、複雑である。そして、想いとは言葉に出来ぬほどに複雑なものであると常々思い知らされる。

「…………アイネ、」

 辛くないのか、とアイネに訊きそうになってブルーシアは喉から出そうになった言葉を飲み込む。長い付き合いであり、親しい間柄ではあるものの安易に立ち入れるような話ではない。

 ブルーシアは首を横に振って言葉の続きをやめた。

「────ブランシュ、もっと私たちを頼ってくれないのかなっていつも思うの」

 籠の中のパンを見つめて、アイネは悲しそうに呟く。金色の大きな両眼に涙が見える。

 ブルーシアに呟きを拾って欲しいのかそうでないのかは分からないが、アイネの小さな呟きをしっかり拾ったブルーシアはアイネに言った。

「ノエルもアイネと同じことを言うわね、ブランシュに頼って欲しいって。もうずーっと、言ってるけど……、────過去はどうしたって変わらない。ブランシュが心に負った傷はもうどうしたって癒えないでしょうね……」

 ブルーシアは休憩室の壁際に置かれた机の上に乗っているフレームを手に取った。長方形の薄い板には細かい電子機器が組み込まれている。分厚い枠に囲まれ、一見すると何の機械だと思われるがその機械は取り込んだ映像や画像を映し出す。

 フレームの中に写っているのは笑っている昔のブランシュ、指で操作すれば別の場面のブランシュが表示された。血塗れのブランシュが力無く笑っている姿。

 こればかりは時間が解決してくれるような問題でもない。そして、ブランシュの負った傷が癒えることないのだと、ブルーシアはそう思っている。

「…………ノエルとブルーシアもそう思ってるんだね…………」

 ブランシュが抱えている苦しみを、ブランシュが独りで抱え込んでしまっていること。ブルーシアはブランシュの心の傷はどうしたって癒えないのだと分かっていることも。

 アイネは籠を抱き締めた。一生懸命、ブランシュのために焼いたパンの匂いが漂う。

「────私じゃ、頼りないの分かるけどブルーシアにもそうなの?」

「…………変わらないわよ。ブランシュが本当に頼りにしていたのも心の支えだったのも隊長だけだから。私だって守らなければいけない者達の一人だと思うわ」

「…………ブルーシアもそうなんだ。そういえば…………私、隊長さんのことよく知らないな。凄く強い人っていうのは聞いていたけど」

「隊長……、ねえ」

 アイネはブランシュが慕っている隊長については噂話程度しか知らないが、ブルーシアは隊長のことをよく知っている。

 銀色の長い髪とブランシュによく似た色の金の両眼。鋭い眼差しに無愛想な表情と態度の男性である隊長の姿を思い出して、ブルーシアはため息を吐く。

 ────ブルーシア、あれはきっと大丈夫だ。

 懐かしい声と言葉を思い出す。ブランシュは大丈夫だ、と信じられる隊長にブルーシアはそういうところが自分達と違うのだろうと思ってきた。

 きっと、大丈夫。立ち上がれる。隊長はブランシュを信じている。

 アイネに言うような思い出話ではないが、心の底の記憶でブルーシアはずっと隊長が羨ましかった。

 …………隊長、貴方のことを今でも尊敬していますよ。

 懐かしいあの戦場の記憶。血の臭いと淀んだ空の下で戦い抜いた記憶を今も鮮明に憶えているブルーシアの心には重いものが乗っている。


 ●


 ────走って一時間ほど経ったか。なるべく木の陰を利用して、己の脚で移動したブランシュは背中にプテを背負ったような状態でスペースタウンを囲う壁の前へと着いた。

 周囲は整備された石畳で、色々な荷物が配送される移動機械用の路も作られている。ただ、妙な静寂が町から出ておりブランシュも違和感があった。

 ソルローアルも静かだが、それなりに人々の活気を感じ取れるのだが。

 …………盗賊崩れの彼らの言うことは…………。

 信憑性は高いだろうとブランシュは思う。一般人には分からないが、血の香りを僅かに感じる。

「…………ブランシュ、なんだか寂しい感じがするよ」

 肩に手を置いているプテがブランシュに小声で言う。プテも町の妙な空気を早々に感じたのだろう。

「町…………というには妙な静けさだね。先ずは侵入出来る箇所を探そうか」

 辺りを見回してブランシュは壁に手を当て、ブランシュよりもずっと背が高い壁を見上げる。スペースタウンの建築物すら超してしまうほどに高い壁、ブランシュは軽く手の甲で壁を叩く。材質をしっかりと硬めて作られた壁は頑丈そうだ。

 壁の外は整備されており、地面も塗り固められている部分もあれば緑が残っているところもある。壁は外敵から住民を守るために作られたものだろうことは常識なのでブランシュは何も言わない。何時どこで魔界の欠片や魔界の残滓が現れるか分からない世界だから、どの町も壁を作る。

「強い能力を持っているブラッディロードなら、私がここに着た段階で感知しているのだろうけど……、まだ血界のようなものも感じられないね」

 ブランシュは静かに歩く。プテはブランシュの背中に貼り付つくようにくっついている。

 時間は夜。町は静かになる時間なのだが、そういう静けさではないものが町から感じ、それがブランシュの足元に纏わりつく。

 …………誰かが泣いている。

 感じた憶えのある感覚。誰かの悲しみがブランシュに伝わってくる様。


 暫く、ブランシュは歩いた。侵入できそうな箇所を探すが、あってもロックがかかっていて無理矢理壊せば警報器が鳴りそうなものばかりだ。

 発達した文明の弊害かと苦笑を浮かべながら、ブランシュは壁を見つめる。力任せに壁を破壊することも可能だが、それでは先遣隊の意味がない。

「困ったね────!」

 プテが呑気な口調で言った。ブランシュがどうにかするのは分かっているからこその呑気さだ。

 ブランシュは息を吐く。腰に巻いたベルトに付けた鞄から小型のナイフを二本取り出す。古風なやり方だが、今のところこれぐらいしか思いつかない。

 力を入れれば破壊も出来るブランシュの腕力なら、ナイフを壁に突き刺すのも容易い。壁にナイフを突き刺して登る。魔法も文明の利器もない古風なやり方だが、ブランシュはいいかとナイフの持ち手を握る。

「しっかり掴まっててね、プテ」

「は────い」

 ブランシュはプテの返事を聞き、頷く。壁に向いて無理のない高さを跳び、両手に持ったナイフの一つを壁に刺す。自分の体重を、自分の腕一本で支える。

 ナイフを壁に刺してぶら下がったブランシュはちょっと思った。

 …………紋章陣、足場にしても良かったかな。

 だが、壁の内側で回復の休憩を入れるなら体力消耗の方がブランシュ的にはマシなので、その考えは捨てた。

 ナイフと腕を支えにブランシュは身体を上げて、もう片方の手に握ったナイフを壁に突き刺す。そして、先ほどまでぶら下がっていたナイフを壁から抜きとり……、とそれを繰り返して壁の上へと登っていく。流石にナイフの刃の強度が耐えきれずに途中で折れてしまうであろうことは予測しているので、ブランシュは魔力でナイフの強度を保護している。

 これぐらいなら微弱だから、敵にも分からないだろう。

 己の筋肉と体力、ナイフ二本で、時間はかかるがブランシュは壁を登っていく。

「ブランシュ、僕は応援とかするべき?」

「いや、大丈夫。こういうのは昔によくあったからね」

 スペースタウンには住宅の他にも商業用の建築物もあるようで、それを超すほどの高さの壁を登るのは楽ではない。

「…………ざっと見て高さ十メートル以上ありそうだね、この壁」

 出来れば静かに侵入したいブランシュは引き続き、地道に登っていく。ソルローアルよりも町を囲う防御壁は高い。

「ぷきゅ──」

 ブランシュの背中に貼りついているプテが小さな声で鳴く。

 疲れもみせずに慣れた手つきでブランシュは壁にナイフを刺して登っていき、時間はどれほど経つか。

 

 ──一時間以上はかかったか、とブランシュは壁の頂上に着いた時に時間を画面を起動して確認する。

「…………一時間以上かかったね。やれやれ、もう少し鍛え直さないと────」

 言いながら、ブランシュはスペースタウンという町を壁の頂上から見下ろす。高層建築物が並び立ち、路は石を砕き他の材料と混ぜて塗り固められている。草木は装飾品のように所々に植えられている。

 ソルローアルは完全に時代遅れの田舎町だ。だから、スペースタウンのような発達した文明を取り入れた町はどこか別世界のようにも感じる。

「…………フランの言うとおり、ライフラインは生きているようだ」

 時間が夜ということもあって、建物の中は明かりが消えているところもあるが路を照らす街灯などは点いている。だが、街灯が点いていても人の活気がなく、町を見下ろしても人影は無い。田舎町のソルローアルでさえ、夜中でも活動している人がいるというのに。

「酔っ払いすらいないのか……」

 ブランシュはため息を吐く。

 今から、壁を降りなければいけないのだが、ブランシュは壁の頂上から真下に視線をやる。

「…………特にブラッディロードの力を感じない。プテ、一気に降りるから気をつけてね」

「うん」

「…………」

 プテの返事を聞いたブランシュは微笑み、壁の頂上から真下へと飛び降りる。風が強く吹き、ブランシュは真下を見つめて降下する。

 背中に貼りついているプテは目を強く閉じて、「ぷきゅ〜」と鳴いた。

 十メートル以上ある壁の高さから飛び降り、ブランシュは地面に直撃する前に魔法を使って綺麗に着地する。少し、目立ってしまっているかも知れないがブランシュはそれならそれで自分が囮になってセイアとフランを行動しやすく……、と前向きに考えることにした。

 先ずは壁登りの休憩をしようとブランシュは気配が無い場所を探すことにし、一歩を踏み出す。

 地面……と言っても石を砕いて硬めた路なので、地面というのもおかしいのかも知れないが。田舎なので土ばかり踏んでいるブランシュは慣れていない足下の感触に苦笑を浮かべる。

「…………プテ、大丈夫?」

「うん、大丈夫。それにしても凄いね」

「うん?」

「町、ソルローアルと全然違うね! キラキラしてる!」

「そうだね、ソルローアルは昔ながらの農村だし……」

「プテの記憶が問題──?」

「問題はないよ。プテの記憶はそれでいいんだ」

「そっか〜」

 ブランシュとプテは会話をしながら、スペースタウンの町の中を歩く。珍しいのかプテは目を煌めかせて辺りを見回す。

 休憩地点を探し歩いても人には出会わない。この規模の町、商業用の建物もあるのに……。

 人口だってそれなりにある筈だが…………。

 …………休憩場所でフランとセイアと連絡を取りたいのだけど…………。

 足を一歩、一歩と動かしてブランシュはプテと共に歩く。それは運命への一歩だとはブランシュは思わなかった。

 急に建物の陰から人が現れたのだ。ブランシュは突然の人影に驚く。

 更に声をかけられたのだ。

「君は…………?」

 綺麗なピンク色の長い髪、真紅の両眼は宝石のように煌めいて瞳の中に星を持っているかのようだ。白い肌、整った容姿は中性的で儚さと不思議な魅力を感じさせるだろう。

 動きやすそうな黒い服を身に纏った人物は突然、ブランシュの前に現れたかのように。本当に突然だった。

 感情を見せない無表情の、謎に満ちた人物とブランシュは出会った。

 名前はミシェル。だが、まだブランシュは彼の名前を知らない。

「…………? えと、この町の人…………?」

 ブランシュは首を横に傾けて謎の人物に訊いたが、逆に訊き返された。

「君が、この町の人じゃ無いのか?」

「え…………」

「え…………?」

 二人は意味が分からずに困惑した。


 ────これがブランシュという名前の魔女とミシェルという謎に満ちた人物の運命の出逢いである。


 

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