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三題噺もどき4

外出(夕方)

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくさんじゅうよん。

 




「……あついな」

 マンションの玄関ホールを出ると、若干の湿気と共に暑さが押し寄せてきた。

 オレンジ色に染まる視界の端から、子供たちが駆けていく。

 制服に身を包み、ランドセルを背に、夏休みと変わらぬ様子で走り回る。

 こんなに暑い日でも、相変わらず元気でいられることは、とても羨ましいものだ。

「……」

 見上げた空は、薄い雲で覆われている。

 オレンジや紫に染まりつつある空は、これからすぐに暗くなるだろう。

 今は少々眩しすぎる。時間に制限がなければもう少し遅い時間でもいいのだがな……。そういうわけにもいかない。閉館ギリギリに来るような迷惑な奴にはなりたくはないからな。

「……」

 しかし、いつもより湿気が酷いから雨でも降った後なのかと思ったが、道路は濡れているようには見えない。むしろ、カラリと乾いている。

 これから雨が降るような雰囲気もないし、なんでこんなにジメジメしているのかが分からない。

「……」

 ただでさえ、陽がまだある時間に出ているのだ。吸血鬼というこの身の上で。

 正直言うと、たいして問題はないのだが、一応従者に怒られるので、肌は完全に覆われている。陽に当たらなければそれに越したことはない。ベランダに出るくらいなら何も言われないが、外出するならどうにかしろと釘を刺されている。

「……」

 それだけでも暑いのに、この湿気と、未だに涼しくもならない気温のせいで、早々に戻りたくなっている。夜は比較的涼しくなりだしているんだが……。というか、少し前までこの時間も涼しくなり始めていたのに、また暑くなったのだろうか。

「……」

 まぁ、どちらにせよ。

 あまり長時間、外にいるには向いていなさそうなので、さっさと用事を済ませに行こう。

 今日はもう、夜の散歩に出る体力はなくなるかもしれない。

 人間より体力はあるが、生憎年をとったせいで、底なしとは言えない。後普通に疲れるから無理だ。

「……、」

 頭にかぶった帽子のつばを引っ張り、更に深く被りなおす。いつもの癖で見上げたせいで、少しずれてしまった。あまりきつく被るのは好きではないから少し緩いのだ。頭をほんの少し動かしただけでもズレる。

「……」

 斜めに掛けた鞄の中身をなんとなく思いだしながら、忘れ物がないことを確認する。最低限の財布と、念の為のケータイ。

 今から行くのは、図書館なので、カードと、本を入れる用の別の鞄とを入れた。

 まぁ、忘れて居たらその時だ。また明日行けばいいだろう。

 それはそれで面倒だが、ここで立ち止まっているわけにもいくまい。

「……ん」

 いざ図書館へ―と、足を進めた矢先に。

 カサ―と、足元に何か音がした。

「……」

 何かと思い、見下ろしてみれば。

 一枚の紙を踏んでいたようだ。いつからそこにあったのか知らないが、これが掲示物が落ちていたとかなら申し訳ない。

「……」

 幸い踏んでいたのは端の方だから、汚れはさして酷くない。

 拾い上げると、そこには大きな観覧車の写真が写っていた。

 それと数個のイベントの案内や他の施設の紹介も数個。

「……」

 ここら辺にあるものではないが、テーマパーク的な場所の宣伝のチラシだろうか。そこの目玉がこの観覧車なのだろう。

 偏見かもしれないが、今時普通の観覧車に乗るような人が居るのだろうか……ただの箱が回っているだけなのに。すべてが透明だったり形に特徴があったりすれば乗る人が居るかもしれないが。まぁ、分からないな。

「……」

 色々と張ってある掲示板に眼をやる。

 特にこれが貼ってあったような形跡もないように見えるが……適当に貼っておいても迷惑だろうから、これは一応忘れ物の箱の下に置いておこう。

「……」

 管理人室のすぐそばに置かれている箱へと近づく。

 先日置いた赤色の筆箱は、どうやら持ち主が現われたのか、箱の中には入っていなかった。

 ……まぁ、あれに持ち主がいるかどうかも定かではないが。

 箱を持ち上げ、紙を挟むようにして置いておく。

「……よし」

 まぁ、何はともあれ。

 さっさと図書館に行かなくては。





「おかえりなさい」

「……起きたのか、おはよう」

「朝食できてますよ」

「あぁ、いただこう」










 お題:オレンジ・観覧車・空

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