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4.とりあえず物語通りに

 物語は思い出した。

 相変わらず題名は思い出せないが、この際、そこはどうでもよい。問題は、これから自分はどう生きるかだ。この先、新しい継母や異母妹に虐められることは確定なのだ。


 ハッピーエンドが待っている以上、どんなに辛い目に遭おうとも、ここは耐え忍ぶべきだろうか。しかし、そのハッピーエンドを迎えるのはまだまだ数年先だ。その間、ずっと虐めや虐待に耐えなければならないのだ。果たして耐えられるのだろうか? 安全のためにも、母方の実家に身を寄せた方がいいのではないか? しかし、そうなるとマシュー・ロックマンに溺愛される未来はない。


 ラリエットは飲んでいた紅茶をテーブルに置くと、腕を組んで頭を捻った。


「そう言えば・・・、侯爵家に嫁いでから、もう一人の男性にも好意をもたれるのよね、ラリエットって・・・」


 ブツブツ独り言を呟きながら、必死に物語の隅々まで思い出す。確か、マシュー・ロックマン以外の男性とのロマンスもある。夫に冷遇されて挫けかかっているところに、侯爵家と一緒に商売をしている商会のオーナーの息子と出会うのだ。仕事で頻繁に侯爵家を訪れることから、少しずつ親しくなる。ラリエットの境遇を気の毒に思っているうちにいつの間にか彼女に恋心を抱くようになる。彼も彼で同情から愛情に変化した口だ。

 もちろん、ラリエットは彼に靡くことはないが、彼の想いと優しさには感謝していた。きっと、満更ではなかったはずだ。


 つまり、二人の男に愛を囁かれる未来が待っているということだ。


 ラリエットは前世の自分を思い起こしてみる。頑張ってもはっきりとは思い出せない。しかし、そのぼんやりとした中でも浮かんできた一人の女性像はとても地味。きっとそれが前世の自分。どこからどう見ても非モテ・・・。いや、実際に非モテだった。そんな自分が男前から溺愛される未来が待っている! しかも、一時とは言え、別の人からも愛を囁かれるなんて、モテモテじゃないか!


「そうよ! 人生に一回くらいモテ期を味わってみたいわ!」


 ラリエットは目を輝かせた。


 酷く虐められるのも、きつく虐待されるのも、こっぴどく婚約者に捨てられるのも、このモテ期とハッピーエンドの代償なのだ。ここは堪えるべきなのではないか?


「うん! ここは逃げないで物語通りにしましょう! 幸せな未来は確約されているのだから!」


 ラリエットは自分を鼓舞するように拳を握りしめた。


「ああ! でも、できるだけ早く迎えに来て下さい! 白馬に乗った私の王子様!!」


 今度は両手を前に組み、窓辺から天に向かって祈りを捧げたのだった。



☆彡



 夜になり、晩餐の時間が近づいてくると、メイドのレイラとアリーが部屋にやって来た。ラリエットを晩餐用のドレスに着替えさせるためだ。手際よく、包帯を替えて手当てをする。その後、怪我を庇いながらゆっくりとドレスを着終えた時だった。


 ドアをノックする音が聞こえ、返事をすると、神妙な顔をした家政婦長フィッツ夫人が入ってきた。


「どうしたの? フィッツ夫人?」


 頭を下げるフィッツ夫人にラリエットは尋ねた。フィッツ夫人は頭を上げると、言い辛そうに眼を泳がせた。しかし、いつまでも黙っているわけにはいかないと、自分を落ち着かせるようにふぅと息を吐いた。そして、再び、ラリエットに小さく頭を下げた。


「旦那様から・・・、お嬢様は足を捻っていて歩くのはお辛いでしょうから、お食事はお部屋にお持ちするようにと仰せつかりました」


「な・・・っ!」

「そんな・・・」


 レイラとアリーは驚いて言葉を失った。

 だが、ラリエットだけは冷静だった。なぜなら、この展開を知っていたから。


(やっぱりね。小説通りだわ・・・)


 小説では母娘が家に来た初日の晩餐からラリエットは除け者にされる。娘の足を気遣うふりして、親子水入らずの食事を楽しむ父。しかし、この父、後になってから初日にお茶も食事も同席せずに、二人に礼を欠いたとラリエットを責めるのだ。足を挫いたのも、部屋で食事をすることになったのも、全部そっちのせいだというのに。じゃあ、どないせいちゅーねん!と突っ込みたくなるところが満載な父親なのだ。


 ラリエットは小説通りに進む現実に、改めて身が引き締まる思いがした。


「わかったわ。ここで頂きましょう」

「そんな! お嬢様!!」


 落ち着いた顔で頷くラリエットに、レイラは思わず声を上げた。


「酷いです、こんなのって! 嘘でしょう? フィッツ夫人?! ここに車椅子だって用意してあるのに!」


 レイラの訴えにフィッツ夫人は辛そうに目を伏せて首を横に振った。前に合わせている両手は微かに震えている。


「申し訳ございません、お嬢様。わたくしからも旦那様にご意見差し上げたのですが、お嬢様の為を思ってとお怒りになるだけで・・・」


「ありがとう、フィッツ夫人。私のためにそこまでしてくれて。私なら大丈夫。それに、歩くのは確かに辛いもの、丁度良かったのよ」

「だから、車椅子があるのに!」


 諦められないレイラは苛立ったように叫んだ。隣でアリーが力強く頷く。


「レイラ、怒っても仕方がないわ。食事の用意をお願いね」


 ラリエットはレイラとアリーを宥めるように微笑んで見せた。彼女の諦めきった笑顔を見て、メイドの二人は泣きそうな顔になった。そんな二人のメイドを引き連れて、フィッツ夫人はラリエットの部屋を出て行った。



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