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30.策士は誰?

 ラリエットが嬉し泣きし始めると、マシューは気を使って部屋から出て行った。


 二人っきりになるとエドガーはギュッとラリエットを抱きしめた。

 いきなりのことにラリエットはビックリして涙が引っ込んでしまった。


「はぁ~・・・、会いたかった・・・、ラリエット・・・」


 耳元で囁くように言う彼の言葉に、ラリエットの心臓は早打ちを始めた。抱きしめられたのも初めて。その上、ここまで愛されていると知ったのもたった今。ラリエットのキャパシティーは飽和状態になってしまった。


「え、えっと! エ、エドガー様! その、な、なんで、ドレスを破ったのが私じゃないって分かっていたのですか?!」


 見る見る上昇する自分の体温に耐えきれなくなり、思わずエドガーの胸を押し返した。エドガーはいきなり突き放され、少しムスッとした顔をしたが、目玉をグルグルさせ、茹でダコのように真っ赤な顔のラリエットを見ると、今度は自分も見る見る赤くなり、パッとラリエットから手を離した。


「ご、ごめん! ラリエット!」


「い、いいえ! 別にっ! その、嫌なわけでは・・・っ!」


「///」

「///」


 暫くの間、お互い間真っ赤な顔で向かい合ったまま俯いた。


「そ、その・・・ドレスと破いたのって・・・?」


 むず痒い沈黙に耐えきれなくなったラリエットが口火を切った。慌ててエドガーが顔を上げた。


「あー! そーそーそー! ド、ドレスの件ねっ! 何で、破いたのが君じゃないって知っていたかってことだよねっ?!」

「は、はいっ」


 ラリエットはまだ赤い顔でコクコクと頷いた。


「実は、マーロウ家にスパイを送り込んでいたんだ」


 少し落ち着いてきたエドガーは、まだ少し赤い顔で悪戯っぽく片目を閉じて見せた。


「スパイ・・・?」


 穏やかでない言葉に、ラリエットは急速に火照った顔から熱が引き始めた。


「うん。我が家の・・・オブライエン家のメイドを一人、マーロウ家に送り込んだんだ」


「メイド・・・」


 もしかして・・・、それって・・・。


「ティナ・・・ですか・・・?」


 にっこりと頷くエドガー。


 やっぱり―――。

 そうか、ならばすべて合点がいく。確かに絶妙なタイミングで雇われたメイドだった。とても無口だったのはスパイがゆえか。そりゃ、懐柔されなくて当たり前だ。すべてはラリエットの為に雇われたメイドだったのだ。


 ラリエットはカクンっと力が抜けた。


「え? ラリエット? ごめん! もしかして、怒った?」


 エドガーはオロオロとした様子でラリエットの顔を覗き込んだ。ラリエットはフルフルと首を横に振った。


「まさか・・・。ちょっと、気が抜けて・・・。嬉しいです、エドガー様。そこまでしてくれて。私、本当はずっと守られていたのね・・・」


「守れてないよ・・・。最近だって子爵に殴られていただろう? あの異母妹(いもうと)のせいで。ティナから報告を受けてるよ・・・」


 エドガーは労わるようにラリエットの頬をそっと撫でた。


「父さんも怒っていたよ。実は半信半疑の部分もあったみたいだけど、ラリエットに会った時、君の頬が腫れていたって。それを見て子爵の虐待を確信したらしい。怒りで演技に拍車がかかったって言ってたよ」


 ということは、あの怒気は演技ではなく本当に溢れていたものだったのかもしれない。


「それでも・・・、伯爵様までもお手を煩わせてしまって・・・」


 申し訳なさそうに目を伏せるラリエットに、エドガーは頬を撫でながらニッと笑った。


「大丈夫だよ。父さん的には好都合だったんだから」


「へ?」


 ラリエットは意味が解らず、ちょっぴり意地悪そうに口角を上げて笑っているエドガーを、キョトンと見つめた。


「父さんは元々弱小なマーロウ家より、ロックマン家と縁戚になりたがっていたんだよ。悪評が流れているとは言え、ロックマン家は侯爵家だし、侯爵は父と親友だしね。若い頃、お互いの子供同士結婚させようなんて話していたらしいよ。ま、二人とも男児しかいなかったから無理だったけど」


 衝撃の事実にラリエットは目を見張った。


「ロックマン侯爵家からマーロウ子爵家との婚約を白紙に戻して養子に入って欲しいと言われた時には、父さんは加勢しようとしたほどだ。その時は本当に頭に来て、一ヶ月ほど家出したよ」


「そ、そうだったんですか・・・」


 ラリエットは目を丸めたまま答えた。だが、ふと一つ新たに疑問が沸いた。


「で、でも、じゃあ、アリエルとの婚約は・・・? エドガー様は私と代えてアリエルと婚約を継続するって言ってました・・・」


「あー、オブライエン家の次男と婚約って話でしょ?」


「はい」


「あれは僕じゃないよ。だって、僕はもうオブライエン家の息子じゃないもの。ロックマン家の息子だからね」


 エドガーは悪戯っぽく片目をパチンと閉じた。


「へ? だって・・・、じゃあ、それじゃあ・・・?」


 オブライエン伯爵家は息子が二人だけしかいないはず・・・。長男のカールと次男のエドガー。あれ? 他に兄弟がいたっけ? もしかして、エドガーって三男坊だった?

 相変わらず、ポカンと狐につままれたようにエドガーを見つめた。


「学院の友人でまだ婿入り先が決まっていない子爵家の三男坊がいてさ。彼を父さんに紹介したのさ」


「え゛・・・」


「そうしたら、あっさり養子縁組して、今は彼がオブライエン家の次男であり、マーロウ子爵家の跡取り娘の婚約者さ」


 絶句しているラリエットを余所に、エドガーはニコニコと笑っている。


「そ、そ、そんなことして、よかったのですか・・・っ? も、ものすごく迷惑をかけたんじゃ・・・、伯爵様にも、そのご友人にも」


 アワアワと青くなるが、エドガーはどこ吹く風。とても涼やかな顔をしている。


「どうして? お互いウィンウィンじゃないか。友人は爵位にこだわっていて、下位でもいいから貴族と結婚したがっていたし、父はその子爵家に恩を売れた上に、マーロウ子爵家とも縁戚になれた。さらに、希望通り、本当の次男はロックマン侯爵家の養子に入ったんだ。うーん、そう思うと、一番得をしているのは父さんかもね。策士だなぁ、父さんは」


 ・・・。

 策士なのは、あなたでは・・・? 


 涼しい笑顔のエドガーの顔を、ラリエットはポカンと見つめていた。



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