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24.消えた宝物

 翌日、ラリエットの体調は完全に元に戻った。体は元気になったが心は沈んだまま。レイラもアリーもいなくなった今、彼女の世話をしてくれるのはティナだ。だが、ティナはこの邸にまだ馴染んでいないのか、元々の性格がそうなのか、とても素っ気ない。まるで、ラリエットとは打ち解け合う気はさらさらないとばかりの態度を取る。

 淡々と業務だけこなし、部屋を出て行く背中を見ながら、ラリエットはふとあることを思い出した。


(もしかして、彼女がアリエルの専属メイドになる()・・・?)


 ラリエットは一人首を傾げた。

 アリエルの専属メイドは元々邸にいたメイドから選ばれることはなく、新たに雇われた娘という設定だった。このティナは最近雇われた娘だ。可能性は高い。ということは・・・。


(彼女に一番虐められる?!)


 ラリエットはサーッと血の気が引いた。

 ティナはアリエルから命令されて、何かに付けてラリエットに嫌がらせをしてくるのだ。そして、彼女の嫌がらせに周りのメイドたちも便乗し、一緒になって虐めてくるようになる。


 ラリエットはブルッと小さく身震いした。


(今のうちに、少しでも親しくなっておこう・・・)


 打算的で姑息な考え方だが、これから一人で嫌がらせを耐えなければならないのだ。正々堂々と虐めに立ち向かえるほどラリエットは強くない。


「そうだ! 賄賂贈るってどう?」


 いい事を思い付いたとばかり、ポンっと手を打った。手持ちのアクセサリーをあげよう。そうやって恩を売っておけば、未来の嫌がらせは多少加減してもらえるかも・・・。


 そんなことを考えながら、ドレッサーの引き出しの中から宝石箱を取り出した。蓋を開けて中を覗いた時、


「うそ・・・」


 ラリエットは青くなった。なぜなら、ブローチが一つ消えていたからだ。

 そのブローチは亡き祖母の形見で、大きなオパールを細かな金細工で囲ったとても古典的なスタイルの逸品。派手で目を引くが、正直好みではなかったので身に付けることはほとんどなく、常にタンスの肥やしになっていた。使うことがないので失くすはずはない。


 元々持っているアクセサリーは少ない。その中でも、一番高級で派手なものが消えている。

 一瞬、固まってしまったが、その横に置いてある貝で出来た蝶々の髪飾りは無事だった。ラリエットはそっとそれを手に取った。


「良かった・・・。これは無事だった・・・」


 大事そうに胸に抱き、ホッと息を付いた。

 もう大して深く考えなくても分かっている。盗んだのはアリエルだろう。熱でうなされている時にあんなに堂々と部屋に入って来ていたのだ。きっと、その前からも、その後だってこの部屋に入って何かと物色していたに違いない。

 ラリエットは呆れたように溜息を付いたが、次の瞬間、何かに気が付いたように、慌ててクローゼットに駆け寄り、乱暴に扉を開けた。そこから小さな箱を一つ取り出す。恐る恐る震える手でその蓋を開けた。


 ラリエットは崩れるようにその場に座り込んだ。手に持っていた箱―――宝物のリボンが入っていた箱の中は空だった。



☆彡



「エドガー・・・。眉間の皺が凄いことになっているぞ・・・」

「本当に。目と口元が笑っている分、ものすごく怖いのだけど」


 コンラッド侯爵家の広間で、兄のカールとその婚約者エレンは、合流したエドガーにちょっとした化け物でも見ているような目を向けた。


「しょうがないじゃないか。今、必死に怒りを抑えているんだから」


 固く握りしめた拳は微かに震えている。それでも尚、カールとエレンににっこりと笑うエドガーからは異様な殺気が溢れていた。


「あー、だから、怖いって、その顔・・・」

「終わったわね・・・。あの()・・・」


 兄と婚約者は軽く溜息を付いた。


「ま、終わっても仕方が無いね。我がオブライエン家の顔に泥を塗ったことには変わりないし」


 カールはエレンに向かって軽く肩を竦めて見せた。


「でも、エドガー。これからは重要なビジネスだ。割り切ってクールに行こう。その顔をどうにかしてくれ。さあ、エレン。その美しいドレスで会場を精一杯魅了しておくれ」


「まあ、カール。ドレスしか褒めないのね。わたくし自身には何の魅力も無いみたい。酷いわ」


「ごめん、ごめん! そんなことはないよ。君だって魅力的だ。美しいよ、僕のお姫様!」


 カールは慌てて拗ねたエレンの手を取ると、甲にキスを落とした。

 その様子をエドガーは白目で睨んでいる。


「あら、見せつけちゃったわね。ごめんなさい、エドガー」


 ちょっと意地悪そうに微笑む未来の義姉は反対の手をエドガーに差し出した。エドガーは小さく溜息を付くと、エレンの手を取った。エレンは隣に立ったエドガーに囁いた。


「でも、実際にあのドレスをあの()に着て来られたら、それはそれで嫌だったでしょう?」


「そりゃ、もちろん・・・」


「なら、残念だけど、結果オーライとしましょう。さあ、二人とも、ラリエットがいない分、お義母様とわたくし二人でこのドレスを披露するしかないの。しっかりと引き立ててちょうだい」


 こうして、あの時の夜会でエドガーは、兄と共にアリエルではなくエレンをエスコートしていたのだった。

 帰りの時、再びアリエルをマーロウ家の馬車まで送り届け、その走り去る馬車の見つめながら、


「待っててね、ラリエット。絶対に助けてあげるから・・・」


 そう小さく呟くと、グッと拳を握りしめ、夜空を見上げた。



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