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22.居なくなったメイド

 ラリエットはゆっくりと目を開けた。窓の外から、柔らかい日差しが先込み、チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる。ぼんやりと天井を見つめる。少しずつ焦点があってくると、ゆっくりと首を動かし、部屋を見渡した。次は、ゆっくりと上半身だけ起き上がってみる。すると楽に起き上がることが出来た。眩暈もしないし、頭も重くない。体もかなり軽くなったようだ。自分の額を触ってみる。火照りも感じない。ホッと安堵の吐息が漏れる。


「やっと熱下がったかも・・・。想像以上にしんどかった・・・」


 弱々しい手付きでサイドテーブルに置かれている水差しの水を手に取ると、コップに移し、口にする。スーッと体中のすみずみに水分が行き渡るのが分かる。ラリエットは一気に水を飲みほした。


 そこにドアをノックする音が聞こえ、遠慮がちに一人の女性が入ってきた。家政婦長のフィッツ夫人だった。夫人は起き上がっているラリエットを見ると驚いた顔をして足早にベッドの脇にやって来た。


「お嬢様。お加減はいかがですか?」


「ええ。もう大丈夫。熱は下がったみたい」


 にっこりと微笑むラリエットの顔を見て、夫人はホッと胸を撫で下ろした。


「よろしゅうございました。簡単な食事をお持ちしますね。お着替えも致しましょう」


 そう言うと一度部屋から出て行った。再び部屋を訪れた時、彼女は一人のメイドを伴っていた。レイラやアリーではない。ティナという比較的最近雇い入れたメイドだ。ティナはフィッツ夫人の指示通り、軽食の乗ったテーブルをラリエットの前に置いた。

 この時は、まだラリエットも深い疑問を持たなかった。レイラもアリーも自分の看病に追われていたので、今は休んでいるのだろうと思っていた。しかし、食事を終えて寝巻を着替えさせるのもティナ。夜になり、夕食を運んできたのもティナだったので、流石に疑問に思った。


「レイラとアリーはどうしたの?」


 ラリエットの質問に、ティナはピクッと体を揺らした。そして困ったようにラリエットを見た。


「まだ休んでいるの?」


 黙っているメイドにラリエットは再び尋ねるが、やはり彼女は何も言わない。目を泳がせて、急いで食事の準備をする。明らかに挙動不審だ。ラリエットの胸に一抹の不安が過る。ティナは支度を終えると、


「・・・フィッツ夫人を呼んでまいります・・・」


 そう言い残し、そそくさと部屋から出て行ってしまった。


 一人残された部屋。不安から食事が喉を通らない。それでも、これから来るフィッツ夫人に心配を掛けないよう、少しずつ口に運ぶ。チビチビ食べているところに、やっとフィッツ夫人がやって来た。心なしか暗い表情をしている。ラリエットはスプーンを置いてフィッツ夫人を見つめた。


「フィッツ夫人・・・、レイラとアリーは今どこに居るの・・・?」


 その質問に、フィッツ夫人は辛そうに目を伏せた。


「彼女達は・・・、二日前、解雇されました・・・」


 彼女の言葉に、ラリエットの身体は凍り付いた


「アリエルお嬢様が夜会からお帰りになった後、急に旦那様に呼ばれて、二人を解雇するように言いつけられました。理由は、アリエルお嬢様に不躾な態度を取ったとかで・・・。取り下げて頂こうとロバートさんと必死にお願いしたのですが、旦那様は異様なまでにお怒りでして、まるで聞き入れてもらえず」


 フィッツ夫人は目を伏せたまま首を振った。


「せめてお嬢様の体調が良くなるまでお世話したいという二人の願いも空しく、翌朝一番には邸を出て行きました」


「・・・そんな・・・」


 顔面蒼白のラリエット。彼女の手は微かに震えている。そんなラリエットにフィッツ夫人は頭を下げた。


「申し訳ございません、お嬢様。私の力が及ばず・・・」


「いいえ・・・、フィッツ夫人のせいではありません・・・、私の・・・私のせいだわ・・・。二人とも私の味方をしたから・・・、私を庇うような真似をしたから・・・」


 ラリエットの瞳から涙が溢れてきた。夫人は慌てて首を横に振った。


「いいえ! お嬢様! それこそお嬢様のせいではございません! 彼女たちは使用人です。いくらアリエルお嬢様が横暴だとしても、主人に対して不躾な態度を取ることは許されません。それは彼女たちにも非があります」


「だからって・・・。悪いのはアリエルなのに・・・っ!」


「確かに、今回のことはあまりにも無謀な命令です。元はと言えば、アリエルお嬢様が悪行に及んだせいですが・・・、だからこそ、上手く立ち回るべきでした・・・」


 フィッツ夫人は落胆したように呟いた。


「二人は・・・どうなるの・・・? どうするの? どこか行く宛はあるの・・・? だって・・・、予定ではこんなに早く・・・」


 そこまで言いかけてラリエットは慌てて口を噤んだ。


「二人とも一度故郷に帰るそうです。大丈夫ですよ、お嬢様。急いで紹介状は書いて持たせました。きっと、どこかで雇ってもらえるはずです」


 フィッツ夫人はラリエットの涙の方に意識が行っており、不自然に口を噤んだことに気が付かなかったようだ。


「突然二人がいなくなって不安でしょうが、お嬢様のことは私が守りますから。ご安心ください」


 彼女はラリエットの手を取ると、優しく撫でた。



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