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19.無茶ぶり

 小説の通り、ラリエットの熱は夜会までに下がることはなかった。それどころか、ダメージのある身体にアリエルの奇行によりさらに追い打ちを掛けられ、もっと熱が高くなる始末だった。

 結果、小説の通り、その夜会にはアリエルが参加することになった。ラリエットの代わりに自分が出たいとアリエルが父に泣きついたのだ。父はその旨を伯爵家へ打診すると、伯爵、そしてエドガーからも了承されたのだ。


 ただ唯一、小説通りにならなかったものがあった。衣裳であるドレスだ。


 エドガー本人から、参加するならば、このドレスを着用するようにとアリエルに手紙を寄こしたのだ。今回の夜会は伯爵家の新しいビジネスにおいて、このドレスを着用して臨むことに大きな意義があるようだ。なので、姉の代わりに出席するのであれば衣装も贈った物を着用するようにとのことだった。


 これにアリエルは青くなった。

 なぜなら、そのドレスはもうズタズタに引き裂かれている。事もあろうに自分の手で。


 焦ったアリエルは、ラリエットの部屋に飛び込んできた。


 ぐったりとベッドに横になっているラリエットには目もくれず、世話をしているレイラとアリーを捕まえて叫んだ。


「昨日のドレスはどこ?! どこにあるの?!」


 はあ?という顔のレイラ。アリーも不思議そうに首を傾げた。


「どこにあるのって聞いているのよ!! まさか捨てた?!」


「いいえ。ラリエットお嬢様の許可を得ておりませんので捨てていません。まあ、とてもお召しになれる状態ではありませんけどね」


 血相を変えて叫ぶアリエルに、レイラは冷静に答えた。レイラの嫌味にアリエルはキッと目を吊り上げたが、言い争っている時間がないらしい。


「なら、持ってきて!! 今すぐ!」


 すぐに命令したが、レイラは相変わらず、意味が分からないと言わんばかりの態度でその場を動かない。苛立ったアリエルは矛先を大人しいアリーに向けた。


「あんた! さっさと持ってきなさい!!」


 アリーはビクッと肩を揺らしたが、チラリと先輩レイラを見た。レイラは呆れたように軽く溜息を付くと小さく頷いた。


 アリーが切り裂かれたドレスを持ってきてアリエルに見せるが、彼女はそれを手に取るわけでもなく、とんでもないことを二人に言い放った。


「明後日までにこれを直しなさい!!」


「は?」

「え?」


 レイラもラリーも目が点になった。


「明後日の夜会にこれを着なければならないの!! だから、明後日の夕方までに直しなさい」


(いや・・・、無理でしょ・・・)


 ベッドの中で三人の会話を聞いていたラリエットは、異母妹のあんまりな無茶ぶりに言葉を失った。まだ熱があり、頭も体の節々も痛いが、自分に鞭を打って起き上がった。それに気が付いたレイラが急いでラリエットの体を支える。


「アリエル・・・、無茶言わないで。あれだけビリビリに引き裂いてしまっては簡単に直らないわ・・・」


「お姉様は黙ってて!!」


 アリエルは癇癪気味に異母姉の言葉を遮った。レイラとアリーに向かって再び叫んだ。


「あんた達! 私の言う通りにして! 早く直して!」


「「無理です」」


 二人は同時にはっきりと答えた。


「なんですって! 逆らう気!?」


「逆らうも何も、無理なものは無理なのです。もちろん我々メイドは裁縫が出来ます。しかし、あそこまでになった物を元通りにするほどの腕はございません。専門家にお願いしないと無理でしょう」


 逆上するアリエルにレイラは毅然と答えた。


「じゃあ、あんた! 直しなさい!」


 今度はドレスを抱えてオロオロしているアリーに命令するが、アリーはブンブン首を横に振る。


「む、無理ですっ! 私はこのお屋敷の中で一番お裁縫が下手なのに!!」


 涙目で叫んだ。


「なんて役立たずなの!? 二人とも!! もういいっ! お父様に言いつけてやるからっ!」


 アリエルはアリーからドレスを奪い取ると、怒りに任せ乱暴に扉を閉めて、部屋を出て行った。



☆彡



 その後、アリエルはドレスを修復できるメイドがいないか屋敷中を駆け回った。一人の見習いメイドがその役目を買って出た。上手くいけば正式に雇ってもらえるという目論みで大した腕も無いのに軽く引き受けたのだ。当然、結果は散々なものになった。避けた箇所を適当に繋ぎ合わせただけ。見るも無残なドレスになってしまった。


 結局、アリエルは正式に娘になった時のお祝いに父から贈られたドレスを着用することになった。


 実は、父は事前に執事から、アリエルが癇癪でラリエットのドレスを引き裂いたという報告を受けていた。しかし、娘可愛さからその所業を咎めずにいた。まさか、エドガー本人からそのドレスを着用するように打診を受けているとは知らなかったので、愛娘が自分の贈り物のドレスを身に付けて公式の場へ出席することに、内心嬉しさを隠せないでいた。可愛らしい娘の正装に、父親はホクホク顔で会場に送り出したのだった。



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