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18.引き裂かれたドレス

 翌朝、やっと目を覚ました時には、少し気分は落ち着いていた。しかし、安心したせいか一気に熱が上がってきた。ベッドから起き上がれなくなり、ゼーゼーと荒く息をしながら懸命に熱と戦っていた。そんなところにエドガーからドレスが届いたのだ。


「ご覧になって下さい! お嬢様! きっとお嬢様にお似合いです!」


 レイラに言われて、ドレスの方に目を向ける。しかし熱のせいで焦点が合わず、あまりよく見えない。


「そうね・・・。綺麗だわ・・・」


 とりあえず、頷いて見せる。例の絹織物で作ると言っていた。あのリボンと同じような品なら美しいに決まっている。もう少し熱が下がったらじっくり見てみたい。よく見えていないのにうっとりとドレスに見惚れる。

 分かっている。このドレスを身に纏って夜会に行くのはアリエルなのだ。自分の代わりにエドガーのパートナーを務めることになるはず。

 それでもラリエットは自分がそのドレスを着た姿を想像して微笑んだ。


 そんな想像しているうち、いつしか深い眠りに落ちていった。



☆彡



 目を覚ますと既に外は真っ暗だった。部屋も小さなランプが一つユラユラと揺れている。

 ベッドの横にはアリーが座っており、ラリエットの額をタオルで拭っていた。


「あ、お目覚めですか? お嬢様?」


 目を覚ましたラリエットに気が付き、アリーはパアッと笑顔になった。


「お水を飲んでください」


 ラリエットは素直に頷くと、アリーが差し出した吸い飲みに口を付けた。


「食欲はいかがですか? 何か食べられそうなものはありませんか?」


 ラリエットは力無く首を横に振った。アリーは困った顔をして、


「リンゴをすったものなどは?」


 そう尋ねると、ラリエットは小さく頷いた。


「良かった・・・! では、すぐにご用意しますね」


 アリーは安堵したように微笑むと、冷たいタオルでラリエットの顔を軽く一撫でしてから、上掛けを直すと、急いで部屋を出て行った。


 数分すると、カチャリと扉のノブが回る音がした。

 アリーが戻って来るには早過ぎる。レイラが来たのだろうか?


 小さな足音が聞こえてきたと思ったらベッドの横で止まった。人の気配がする。ジッと自分を見下ろしているようだ。きっとレイラだろう。

 メイドだと信じ込んでいるラリエットは、熱で重たい瞼を開けるのが億劫で、そのまま動かずにいた。


 しかし、次の瞬間、想像と違う声が聞こえ、驚いて固まってしまった。


「お姉様だけ狡い・・・! エドガー様からドレスをもらうなんて・・・!」


 悔しそうに呟く声。

 紛れもない異母妹の声だ。しかし、自分の頭はまだポーっとしている。もしかして、高熱のせいで幻聴でも聞こえたか?


 ラリエットは恐る恐る薄目を開けた。

 そこには冷たい顔で自分を見下ろしているアリエルがいた。しかも手には何やら鋭利な物体を持っている。


(ひいぃ・・・っ!)


 ラリエットは声にならない悲鳴を上げ、ぎゅっと目を閉じた。


 何で? 何で? 何で?

 何故、異母妹がこの部屋に? しかも、刃物を持って!?

 高熱で幻覚を見ているのか? それとも夢?


(ちょっと、待って! こんなホラーな展開知らないしっ!! 私って殺されるの?!)


 すっかりパニックに陥っているラリエットは恐ろしくて声が出ない。

 体中がカタカタ震え始めたが、アリエルはそれに気が付いていないのか、


「よく寝てるわね・・・」


 そう呟いた。そして、ベッドから離れるとあるところに向かって歩き出した。

 ベッドから離れ気配を感じ取って、ラリエットはそっと目を開け、アリエルの背中を目で追っていると、彼女は、飾っているかのように、ハンガーに掛かったままのドレスの前で立ち止まった。


(え・・・?)


 ラリエットは嫌な予感がした。でも・・・、まさかね・・・。

 息を潜めて見守っていると、その予感は的中した。


「なによっ! こんなドレス!! いい気になっちゃって!」


 そう毒づいた瞬間、アリエルは刃物でドレスを引き裂いた。


(ええぇぇぇえ~~~?!)


 ラリエットは仰天して目玉が飛び出した。


(それ、貴女が着るはずのドレスなんですけどぉ!?)



☆彡



 アリエルの奇行を、ラリエットは最早、放心状態で見ていた。

 そこにレイラとアリーが控えめにノックをすると、そっと部屋に入ってきた。


「なっ! 何をしているのですかっ!! アリエルお嬢様!!」

「っ!!」


 レイラの叫び声に、アリエルは驚いて振り向いた。


「何てことを・・・っ!! 何てことをしてくれたのです!!」


 レイラは真っ赤な顔でギッとアリエルを睨みつけた。怒りで体が小刻みに震えている。一方、アリーは替えの水を入れたタライを抱えたまま、血の気の引いた顔でカチンと凍り付いていた。


 アリエルは一瞬たじろいだが、


「ふんっ! なによ! 使用人のくせに偉そうに!」


 すぐにキッと睨み返した。そして、


「お姉様が狡いからいけないのよ! 一人だけパーティーに行くなんて! 絶対行かせないからっ!」


 そう叫ぶと、これ見よがしに、更にドレスを引き裂いて見せた。


「なっ!」


 そんな蛮行に、レイラは怒りが倍増し、ギリギリッと歯ぎしりをした。アリーの大きな瞳からは涙が溢れ出した。


 最後にアリエルはラリエットの方に振り向いて意地悪そうに笑った。


「ふんっだ! これでいくら熱が下がったからって、着ていくドレスがなきゃ行けないわね! いい気味!」


 そう言い残し、二人の侍女を無理やし押し退けるようにして部屋から出て行った。

 ラリエットはポカンと口を開けたまま、異母妹を見送った。



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