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14.ライラック

「それより、今日はどうしていらしたのですか? 急用?」


 ラリエットは声のトーンを一段上げて、無理やり話題を変えた。そんなラリエットを見て、エドガーも気を取り直し、優しい笑顔になった。そして、急に嬉しそうに、


「そうだった! 君に渡すものがあるんだ!」


 そう言うと、ラリエットの手を取り、ソファにエスコートした。

 彼女をソファに座らせると、テーブルに置いてあった小さな箱を彼女に手渡した。


「今日は兄さんの仕事にお供したんだ。新たに絹織物の商売に関わることになってね。我が家と懇意にしている商会との商談に立ち会わせてもらったんだ」


 エドガーはまだ学生だ。この国の王立男子学院は女子学院よりも在学期間が長い。勤勉な彼は、将来マーロウ子爵家を継ぐために、在学中から率先して父や兄の手伝いをしながら、領地運営のノウハウを学んでいるのだ。


「そのサンプルとしてもらったものだよ。開けてみて」


 ラリエットはそっと蓋を開けると、中にはオフホワイト地に薄紫色の小花が織り込まれた可愛らしいリボンが入っていた。


「わぁ・・・、素敵・・・!」


 あまりの可愛らしいリボンにラリエットは思わず感嘆の声が漏れた。


「気に入った?」


「はい・・・」


 ラリエットは広げたリボンに見惚れたまま、うっとりと吐息を吐くように返事をした。


「良かった・・・。実は三つもらったんだ。母の分と兄さんの婚約者のエレンの分、そしてラリエットの分。でも柄が全部違って。薔薇と百合とライラックがあったんだけど、ラリエットにはライラックが似合うと思って」


 エドガーはホッとした表情をした。だが、


「エドガー様が選んでくれたんですね? 嬉しい・・・」


 そう言いながら、嬉しそうにリボンに優しく頬刷するラリエットを見た途端、その可愛らしい仕草にポワッと顔が赤くなり、慌てて顔を背けた。


「ありがとうございます、エドガー様。大切にしますね」


「う、うん・・・」


 エドガーは微笑む婚約者の顔を正視できず、そっぽを向いたまま恥ずかしそうに頷いた。


「でも、エドガー様。このリボンを下さるためにわざわざ我が家に寄って下さったの?」


「うん、まあ・・・。すぐに渡したくって・・・。ラリエットの喜ぶ顔が見たかったから」


「っ!!」


 相変わらず明後日の方向をむいたまま、恥ずかしそうに頭を掻くエドガーに、今度はラリエットの方が赤くなってしまった。



☆彡



 エドガーは用事を済ませるとすぐに暇を告げた。ラリエットはエントランスまで送ろうとしたが、足の大事を取って、客間で別れた。


 エドガーが外に出てすぐだった。後ろから彼を呼び止める声がした。


「エドガー様! いらしていたんですね!」


 振り返ると、アリエルが満面な笑みを浮べたアリエルがいた。


「やあ、アリエル嬢」


 エドガーは、既に被っていた帽子の唾に手を掛け、軽く会釈をした。

 アリエルはトトトッと可愛らしくエドガーのもとに駆け寄ってきた。


「もうお帰りになるの? 折角いらしたのに・・・」


「うん。用事は済んだからね」


 上目づかいで残念そうに見つめるアリエルに、エドガーはにっこりと答えた。


「私、昨日、エドガー様と全然お話しできなくて残念だったんです。だから、少しおしゃべりしませんか? お庭をお散歩しましょうよ、昨日みたいに!」


「でも、僕はもう帰らないといけないから」


 失礼にならないように微笑んだまま断るエドガーだが、アリエルは引かない。


「ちょっとだけでもダメですか・・・?」


 少し目を潤ませ、寂しそうにエドガーを見上げる。そんな彼女の態度にエドガーは少し呆れ気味に軽く肩を窄めた。


「ごめんね、帰らないと・・・」


 と言いかけてから、ハタと何かを思い付いたような顔をすると、


「いや・・・、いいよ。少し歩こうか。僕も聞きたいことがあるんだ」


 再び笑顔をアリエルに向けた。


「はい! なんですか!?」


 アリエルの顔はパアッと明るくなった。


「ラリエットの頬が腫れていたんだけど、アリエル嬢は原因を知っている?」


 その質問にアリエルの明るくなった顔が一気に曇った。そして、悲しそうに眼を伏せた。


「お父様に叩かれたからです・・・」


「叩かれたって? 何で叩かれたのか理由は知っている?」


「私に意地悪をしたから・・・。お父様がそれをお怒りになって、お姉様を殴ったの・・・」


 アリエルはとても辛そうに答えた。


「ラリエットが? 意地悪を?」


 とても信じられないというようにエドガーは目を丸くしてアリエルを見つめた。


「はい・・・。お姉様は私のことが嫌いだから・・・。前から私を虐めるの・・・。私、ずっと我慢してお父様には黙っていたんだけど・・・。だって、いつか仲良くなれるって信じていたから・・・」


 アリエルは目を伏せたまま続けた。泣くのを堪えているのか、声が掠れてきた。


「昨日だって・・・。エドガー様にご挨拶したことが気に入らなかったみたいで、お姉様に暴力を振るわれて・・・」


「ラリエットが暴力・・・?」


 相変わらず驚き過ぎて目を見開いたまま、エドガーはボソッと呟いた。


「はい・・・。昨日はその場をお父様に見られてしまって・・・。お父様はとても怒ってお姉様を殴ったんです」


 アリエルはチラッとエドガーを見た。エドガーは目を皿のように丸くしたまま固まっていた。


「エドガー様・・・?」


 アリエルに声を掛けられ、エドガーはハッとしたように我に返ると、


「それは・・・酷いな・・・」


 顔をひどく顰めて呟いた。


「でも、今回お父様に叱られたことでお姉様も反省したと思います」


「そうか・・・」


 エドガーも顰めた顔を元に戻し、にっこりと微笑んだ。


「君も大変だったね。貴重な話をありがとう」


 アリエルは健気な笑みを作り、可愛らしく首を横に振ってみせた。




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