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十五年越しの再会

朝日が差し込む市場は、いつにも増して活気に満ちていた。

 明日の皇太子の婚礼式を前に、農民たちはせわしなく米や野菜、果物などの食料を運んでいた。


「ウヨン!米は、そっちじゃないだろ!」


 ひときわ大きな声が市場に響いた。

 中年の男、ドヒョンが叫んでいる。


「明日は皇太子様の婚礼式だ。運ぶ物が山ほどあるんだ。早く動け!」


「分かったよ、父ちゃん。すぐ行くってば……おっと!」


 大きな米俵に気を取られたウヨンは、角を曲がったところで誰かとぶつかった。


 米俵が地面に落ち、白い粒がぱらぱらとこぼれる。


「申し訳ございません……お怪我はありませんか?」

 ウヨンは慌てて土にひざをつき、深く頭を下げた。


「君こそ、大丈夫かい?」

 ぶつかった相手――長身で精悍な顔立ちの青年が、心配そうに言葉をかけた。


「申し訳ございません。お許しくださいませ……!」


 頭を下げ続けるウヨンに、青年は静かに声をかける。


「顔を上げてください。私は身分の高い者ではありません。ただの護衛でございますから。」


 ウヨンはおそるおそる顔を上げる。


 その瞬間――


「……も、もしかして、ウヨンか?」


 青年の瞳が見開かれ、息を呑んだ。


「え? はい、私の名前はウヨンですが……どこかでお会いしたことがありますでしょうか?」


 青年は答える代わりに、ウヨンの肩を強く抱きしめた。


「ウヨン……生きていたのか……!」


「っ……兄上……?」


 声が震えた。


「そうだよ……ウヨン。俺だ、ジェヒョンだ。」


 ウヨンの瞳が一気に潤む。


「兄上……! 本当に……本当に兄上なのですか……!?」


 二人は、十五年という時間を一瞬で越えて、互いの温もりを確かめ合った。


 ジェヒョンの腕の中で、ウヨンがぽつりと呟く。


「兄上と別れたあと、食べるものもなくて、森の中で倒れていたんです。そこで村の人が見つけてくれて……それからドヒョンおじさんに育ててもらったんです。」


「ウヨン……俺も、お前が生きているかどうか、ずっと……」


「でも、兄上は迎えに来てくれなかった。ずっと待っていたのに。僕……信じていたんです。いつか兄上が来てくれるって……!」


 ジェヒョンは言葉を失い、ただ弟の頭を撫でるしかなかった。


「すまない……ウヨン。それには訳があるんだ。ずっと、ずっと会いたかった。」


 その時、市場の向こうから声が飛んできた。


「ウヨン! 何してるんだ、早くしろ!」


「ドヒョンおじさん……!」


 ウヨンは名残惜しげにジェヒョンを見上げる。


「すみません、兄上……もう行かなくちゃ。」


「ああ……俺はしばらくこの地にいる。またきっと、ここで会おう。」


「……はい、必ず。また……!」


 ウヨンは米俵を背に抱え、駆け足で立ち去っていった。


 ジェヒョンはその背を見送る。

 こみ上げる思いを、胸の奥に押し込めながら。


「ウヨン……お前が生きていた……。俺が選んだ道は……間違っていなかったんだ……。」


 ジェヒョンの目に、熱いものが滲んだ。

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