母の真相
王宮の一角、月の光が差し込む回廊。
石の壁に飾られた豪奢なタペストリーの前で、トアはエリシアの到着を待っていた。
音もなく、背後から香の匂いが漂ってくる。
「こんな時間に呼び出すなんて……王子ともあろう者が無礼ね」
ゆっくりと振り返るトアの目は、怒りに燃えていた。
「話がある。二人きりでなければできない話だ」
エリシアは微笑んだ。
その表情は、まるで舞踏会に出る前の貴婦人のように優雅だった。
「言ってごらんなさい。私に何の用?」
トアは一歩踏み出す。
「母に、毒を盛ったのは……お前か」
微笑みが、ピタリと止まった。
回廊に冷たい沈黙が落ちる。
エリシアは一瞬だけ目を閉じ、そして静かに、言った。
「やはり、辿り着いたのね」
「なぜだ。なぜ母を……! あの人が、何をした?」
「“何もしなかった”ことが、罪だったのよ」
トアの拳が震える。
「……母は、国の未来を思っていた。戦を止めたかった。お前には分からない!」
エリシアの笑みが戻る。だがそれは、皮肉と嘲りに満ちていた。
「国の未来? 理想で国が守れると思っていたの?
あの女はただの“お飾りの王妃”。それ以上でも以下でもない。
あの人が王を動かせば、国は滅びた。……だから私が動いた」
「母を殺してまで、お前が欲しかったものは何だ!?」
その叫びに、エリシアは歩み寄り、囁くように言った。
「“玉座”よ。
それと、“私の血を継ぐ子が王になる未来”。
あなたがいる限り、その夢は果たされない。だから邪魔なの。昔からずっと」
「俺は、母の命を奪ったお前を、絶対に許さない」
「それでいいわ。憎んで。怒って。追ってきなさい。
その先で、あなたが本当に“王”にふさわしい器かどうか、見てあげる」
冷たい瞳と瞳がぶつかる。
その場には、もはや親子でも、義理の関係でもない。
ただ――敵と敵。
「私を倒せたら、母の無念を晴らせると思ってる?
面白いわ。なら、命を賭けてみなさい、王子様」
エリシアはその場を去った。
音もなく、影のように。
残されたトアの背中に、冷たい風が吹き抜けた。
だがもう、迷いはなかった。
母の遺した言葉。
「王である前に、人でありなさい」
今の自分は、母の意志を継いだ“人”として、この闇と戦う。
そして、必ず勝つ。




