母の死の真相 トア
王宮の地下にある古文書庫――
今では誰も使わぬその場所に、トアの足音だけが静かに響いていた。
古びた書簡の束、崩れかけた棚、埃まみれの記録帳。
その中から、彼は一通の報告書を見つけた。
『王妃イシルの侍女シア、解雇の件。
毒草所持の疑いあり。詳細は内密に処理済み。』
「シア……?」
心当たりはあった。
母のそばで、よく笑っていた、優しい眼差しの女性。
急に姿を消したのも、あの日の少し前だった。
トアは古記録に残された住所を頼りに、王宮を出た。
***
小さな村の外れに、崩れかけた屋根の小屋があった。
そこに、シアはいた。
時の流れに削られたような姿。
だが、その目だけは、あの頃と変わらぬ温もりを宿していた。
「……トア様……」
「教えてくれ。母に何があった?お前は、なぜ姿を消した?」
シアは震える手で膝の上を握り締めた。
「……私は、王妃様のために毒を運んだの……でも、それが……」
「王妃のために?」
「“慢性的な不眠”と診断されたと聞かされ、薬草を調合するよう言われました。
それを毎晩、お茶に混ぜるよう命じられていたのです。
……でも、ある日突然、王妃様が倒れられた」
トアの喉が、乾いて声が出なかった。
「その後、宰相ハレンから言われたの。“すべては王妃の体調による偶然だ。口外すれば、お前も罪に問われる”って。私は怖くて……何もできなかった」
「命令したのは誰だ」
シアは俯き、長い沈黙のあと、搾り出すように呟いた。
「……レディ・エリシア様です。
宰相ではなく、彼女が……毒草の調合を、詳細に指示していました」
その瞬間、すべてがつながった。
優雅に微笑んでいた継母の姿が、母を死に追いやった影と重なる。
「許さない……!」
トアの声は低く震え、燃えるような怒りが胸に込み上げていた。
だがシアは、弱々しく首を振った。
「だめです、トア様。彼女は……あなたのすべてを、壊そうとしています。
もし動けば、次は……あなたが消されます」
「それでもいい。母のために、俺は……立ち止まれない」
トアは立ち上がった。
母の死は、偶然などではなかった。
これは、明確な“殺意”だった。




