トアの母の死の真相①〜トアside
王宮の西側――誰も近づかない古い庭園。
そこは、かつて王妃であった母が愛した場所だった。
風が吹くたび、薄紫のリンドウがさざめく。
あの頃と、何も変わっていない。
僕は、まだ幼い頃の記憶を辿るように、草の茂みにしゃがみ込んだ。
小さな手を取ってくれた母の温もり。
柔らかな声で読み聞かせてくれた物語。
リンドウの香りに包まれながら、彼女はいつも微笑んでいた。
──突然の病、そう聞かされた。
葬儀の日。父王は「仕方のなかったことだ」と目を伏せ、家臣たちはひとことも声をかけなかった。
ただ一人、老侍従のミランだけが、ぽつりと漏らした。
「……あの方は、何かを知ってしまったのかもしれません」
「何を?」トアは幼い声で訊ねたが、ミランは答えなかった。
その日を境に、彼も突然姿を消した。
時は流れ、僕は青年へと成長した。
そしてある日、母の書斎から古びた手紙を見つけたのだ。
『この国の未来が、わたしの愛する者たちを傷つけるのなら、
たとえ命を差し出してでも、守りたい。
だがもし、わたしが不在となる日が来たなら──
どうか、真実を知ろうとしないで。
あなたの心が壊れてしまうから。』
震える手で手紙を握りしめたトアは、ひとり静かに庭へ向かった。
母の声が、風の中で囁くように響く。
「真実は、知らないほうがよかったの?」
だが彼は、母の願いに背く決意をした。
優しさだけでは、守れないものがあることを、今の彼は知っている。
母の死は、事故ではない。
この王宮には、闇がある。
そして、トアはその闇に足を踏み入れる覚悟を決めたのだった。




