悲劇の森と別れ
静寂の森の中を、ジェヒョンとへヨンが急ぎ足で駆けていた。
「こちらです、へヨン様。すぐに山を越えれば安全な村に辿り着きます。」
夜の帳が降り、足元は見えづらい。へヨンは不意に足をもつれさせ、倒れ込みそうになった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、、、」
ジェヒョンが手を差し伸べ、優しく抱き起こす。
そのときだった。
闇にひそむ敵の気配とともに、一筋の矢がジェヒョンの胸を撃ち抜いた。
「――ッ!」
「ジェヒョン!」
へヨンの叫びが森に響いた。
ジェヒョンはその場に膝をつき、口元に血をにじませながらも微笑みを浮かべる。
「……どうやら、見つかってしまったようですね。」
「ジェヒョン、お願い……立って……行きましょう、早く逃げなきゃ……!」
「へヨン様、僕のことは構わず……お逃げください。あなたさえ無事なら、それで……」
へヨンは首を振り、涙を流しながら叫んだ。
「嫌よ、行かない! あなたと一緒に生きるって言ったじゃない。私をひとりにしないって、言ったじゃない!」
ジェヒョンは、もう一度だけその目に力を宿して、彼女に言った。
「あなたがいたから、僕は生きてこられました。こんなにも苦しい世界で、あなたが……僕の光だった……へヨン様、僕は……あなたを、愛しています……」
言葉の最後と共に、ジェヒョンの体から力が抜けた。
「ジェヒョン、、、ジェヒョン、、、」
へヨンは必死に動かなくなったジェヒョンの体を揺さぶった。
「ねぇ、やだよ、お願い、ジェヒョン、、、答えて、答えなさい。」
へヨンの叫び声が森中に響き渡った。
「ねえ、、、なんでなんで。愛してるなんて、、、初めて言ってくれた、、、なのに、、、」
へヨンの叫びに応える者はもういなかった。
そこに国王の刺客が現れる。
「へヨン様、陛下が討たれました。もうこの場を離れねばなりません。」
「……あなたたちが、殺したのね。父の命令で……」
刺客たちは沈黙し、彼女を無理やり立たせる。
「離して! 私はジェヒョンのそばにいるの!」
へヨンは抵抗しながらも連れて行かれる。振り返り、最後までジェヒョンの姿を見つめていた。
「ジェヒョン……あなたのいない世界なんて、もう何の意味もないわ……」
その直後、ウヨンが駆けつける。
「兄上……兄上ーー!!」
ジェヒョンの亡骸を前に、ウヨンは崩れ落ちた。
「どうして……どうして、こんなことに……兄上……!」
嗚咽の中で、彼は空に向かって叫ぶ。
「父の仇を討ったというのに……兄上がいなければ、なんの意味もない……! 兄上、僕は間違っていたのでしょうか? これが正義だったのでしょうか?……どうか教えてください、兄上……!」
ウヨンの声が森に響き渡る。
答える者は、もうどこにもいなかった。




