カルミヤ王国
〈カルミヤ王国・王宮・謁見の間〉
重厚な石の柱に囲まれた謁見の間に、静かに足音が響く。
ひざまずいた黒装束の男が、頭を垂れたまま口を開いた。
「陛下、ジェヒョン様より伝言がございます」
カルミヤ王は玉座の上で身を乗り出す。
「申してみよ」
「はい。トリカブト王国が、カルミヤへの侵略を企んでおられます。
すでに兵の数を増やしており、侵攻は目前とのこと……」
「……それは、確かな情報か?」
王の声が低く落ちた。空気が張り詰める。
「はい。ジェヒョン様が自ら、王宮内の動きを探り、掴んだとのこと。
このままでは、皇女ヘヨン様の安全が――」
王はゆっくりと立ち上がった。
「そうか……そうなれば、娘には帰国してもらわねばなるまいな」
刺客が顔を上げかけると、王は目だけで静かに制した。
「だが、“娘を引き戻す”などと騒げば、相手に警戒される。
……我が息子・ドヨンの“皇太子就任式”の名目で、呼び戻すとしよう」
「はっ。かしこまりました」
王の目が鋭く光る。
「ヘヨンには、王女としての“選択”をさせる。
……国のためか、心のためか。
その時が、いずれ来るであろう」
刺客が深く頭を下げ、静かに去っていった。
やがて王は一人きりになると、ため息のように呟いた。
「“愛”など、政には不要。
それを教えなかったのは、あの子のためだったのだがな……」
そして再び、玉座に深く腰を下ろした。




