動き出すウヨン
〈カルミヤ北部・山間の村の隠れ家〉
乾いた風が、木々の間を抜ける。
レアの率いる農民兵たちが、少しずつ、しかし着実に戦の準備を整え始めていた。
剣ではなく、鍬を。
盾ではなく、竹かごを。
民は武器の代わりに、生活の道具で戦う術を覚えていく。
「集まってくれた者たちは千を超えました。火を放つ合図は?」
レアの問いに、ウヨンは地図を広げながら答えた。
「北の見張り塔だ。あそこに火を上げれば、城の兵は必ず西門に集中する。
その隙に、我らは南門から民を導く」
軍事大臣が低く告げる。
「しかし、今のカルミヤ王宮には、へヨン様がいる。いざ戦となれば――」
ウヨンの表情が曇る。
「分かっている……。だが、今さら後には引けない。
彼女には、いずれ真実を伝える。だがそれは、“国が変わったあと”だ」
刺客の一人が口を開く。
「ジェヒョン様には、知らせるのですか?」
「……いいや。あいつは、まだ知らなくていい」
ウヨンは静かに言った。
「彼は“守る者”だ。誰よりも、へヨン様を。
ならばその誇りごと、俺が裏切るわけにはいかない」
その言葉に、仲間たちは沈黙する。
レアがふと、遠くの空を見つめた。
「もうすぐ……季節が変わる」
「――国も、変わるさ」
ウヨンは地図をたたみ、立ち上がった。
「あと三日。
――その日、カルミヤの空に“火”を灯す」




