ジェヒョンの想い
中庭を囲む回廊の影。
誰もいないはずのその場所に、ひとつの影が静かに佇んでいた。
ジェヒョンは、柱の陰から二人の姿を見つめていた。
ヘヨンと……トア。
ヘヨンが疲れた表情で小瓶を受け取る様子。
優しく笑いかけるトア。
互いに視線を交わし、風に揺れる花のように、言葉を交わす姿――
その穏やかすぎる光景に、胸の奥がじわりと熱くなった。
嫉妬……ではない。
ただ、何かが、ゆっくりと崩れていくような、そんな痛み。
(ヘヨン様が………笑ってる)
あんなふうに、自然な顔で。
何にも縛られず、何にも怯えず、心から誰かと話している。
これまでずっと彼女の側にはいつも僕がいた。
国王は彼女の誕生日を忘れ、王妃様が後継者である弟ばかりを溺愛している時も、
僕はずっと側で彼女を愛してきた。
拳が、震えた。
だが、それを抑えるように胸の前で組み、ジェヒョンはそっと目を閉じた。
(……違う。ヘヨン様は、今、少しだけ救われていた。なら……俺がすべきは、怒ることではなく――)
ただ、守ること。
それが、僕にできる唯一のことだ。
二人の姿は、やがて中庭の奥へと消えていった。
ジェヒョンはその背中を見送ると、柱に背を預けて、ひとつ息をついた。
「……せめて、ヘヨン様には自由な笑顔を」
その言葉が、風に紛れて誰にも届かぬまま、静かに散った。